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糸を作る〜糸の仕様を考える〜

2018.11.16


こぎんバンクでは、昨年拝見した大川亮のベストに使われたこぎん糸を再現してみようと、糸づくりをはじめました。この糸づくりの相談に載ってくれたのは、葛西郁子さん。京都で西陣織の絣加工職人をしています。葛西さんは、弘前市出身。大川亮は葛西さんの曽祖父です。幼少の頃から大川家に残るこぎん刺しや農閑工芸の数々は身近な存在でした。

 

 

西陣絣とはこんな布です。

 

 


絣は木綿の久留米絣が有名ですが、絹織物で表現される西陣絣は、シルクの色艶が繊細にきらめき、さりげない華やかさがあります。京呉服・西陣織の数ある技法の1つに数えられます。献上工芸品だった西陣織と農民の用の美から生まれたこぎん刺しとは、同じ伝統工芸でもまるで次元が違う感じがしますが、どちらも糸から生産されるものです。

 


今回の糸づくりでは、古作のこぎんの特徴を残しつつ、現代の使い勝手に配慮して作りたいと考えました。因みに、大川家に残るこぎん刺しは、東こぎんになります。対する西こぎんは布目の細かい苧という麻布が使われていました。そのため、糸の太さも東こぎんとは違うかもしれません。

 


まずは具体的な糸の太さと合わせ本数を知るために糸の見本帳を取り寄せ、世の中にはどんな木綿糸があるのか調べてみました。

 

この見本帳は生川商店のwebサイトから購入できます。

 

糸は太さ何番単糸を何本縒り合わせるかで仕様が決まります。太さの番手は数字が大きいほど細い単糸になります。見本帳では合わせ本数の1本の違いも実物触ってよくわかるのでとても良い参考になりました。糸も色々あるのですね。あの糸の束みたいな太いフサフサの糸はどんなものに使われるのか気になります。

 

糸の太さは、現代のこぎん刺しによく使われるコングレスという布に合わせた太さを考えました。その理想の太さに近い糸がこのコットンキングという糸。この糸自体もこぎん糸として十分使えそうです。この糸は10番単糸6本合わせ。撚りが細かい印象がしますが、糸の太さはこの糸を参考に考えます。

 

生川商店のコットンキング

 


次は糸の縒り具合を古作に近づけたいので、葛西さんが所有する古作のこぎん刺しの糸を確認してもらいました。葛西さんの所有する古作は東こぎんです。大川氏のベストと比べてみると糸はかなり似ています。

 

画像右:大川氏が着用していたベスト 画像左:葛西さん所有の古作東こぎん

 

古作は4本合わせであることが確認できました。

 

 

太さの参考にしていた糸と比べると、糸自体の太さも似ています。でも単糸は少し太い印象。太さの参考が10番単糸の6本合わせであることから推測すると、作りたい糸は8番単糸4本合わせになることが濃厚です。

 

また、糸の縒り方向が違うことがわかりました。 古作はZ縒り(左縒り)、参考サンプルはS縒り(右縒り)。縒り方向の違いによる影響は以前に糸メーカーフジックスのツイッターでこんなことを知りました。

 

手縫い糸とミシン糸の違い

https://twitter.com/fujix_info/status/953777391574204416

 

右利きの人の手縫い糸は右縒りの糸を使った方が縒りが解けづらいようなので、ここは利便性を考慮して右縒りで作ってもらうことにしました。

 

しかし、なぜ古作は左縒りなのか?東こぎん以外にも古作の写真を観察してみると、こぎん糸は左縒りが殆どなのです。

 

色々調べてみると、手で縄をなうことにヒントがあるようでした。実際にティッシュを紙縒にして作ってみると解るのですが、糸は同じ方向に撚った単糸どうしを合わせると単糸の縒り方向とは逆の方向にねじれ絡まることで出来上がります。右利きの人が指先で縒りをつくる時は上から見て時計回りに捻れ、S縒りになります。S縒り同士を束ねると逆転して捻れ絡まり、Z撚りの太い糸が出来上がります。古作のこぎん糸が手紡ぎ糸ならば、このような理由でZ縒りなのではないでしょうか。

 

 

因みにZ縒り・S縒りというのは、縒り合わせた糸の流れがそれぞれのアルファベットに見えることから呼ばれています。

 

つくるべき糸のカタチが見えてきました。 仕様は木綿8番単糸4本合わせ、右縒り(強め)。

 

実際に問屋さんに問合せたところ、昨今の木綿業界では、刺繍糸に使うような太めの糸は10番や20番単糸が主流で8番単糸の扱いが少ないのだそう。次第に8番単糸という糸の取り扱いもなくなるのではないかとのこと。ならばなおのこと、koginbankとしては希少になる8番単糸の糸を作りたい。幸いにも8番単糸を問屋さんにオーダーすることができました。最初に見た糸の見本帳も10番手や20番手の単糸のラインナップばかりだったのはこんな糸の実情があるからなのかもしれません。

 

 

待つこと3週間。糸が出来上がってきました。糸はこのような、ストッキングに包まれたバームクーヘンみたいな状態で出来上がってきました。これはコーンと呼ばれています。1個あたり約500g。上の画像は染める前の精錬された真っ白な糸です。精錬前のできたての糸はもっと黄身がかった生成色でした。1年を超える長期保管をする場合は精錬前の生成り状態での保管するべきなのだそう。精錬した糸は保管状況によっては黄変してしまいます。

 

コーンから糸を引き出して感触を確かめます。

 

 

できたての糸を古作の糸と比べてみます。なんとなく糸のハリというか、フカフカ感というかムクムクが足りない。芯が残っているパスタみたいな、なんとも満足出来ない印象を持ちます。昔の和綿と現代の米綿の違いでしょうか。今と昔では綿花の種類が違うのだそうです。かつては日本で育つ和綿がありました。しかし明治以降は比較的繊維が長くて扱いやすいアメリカ産の米綿が日本に広まり、和綿は今では稀少な存在になっています。

 

 

実際にコングレスに刺してみたのが上の画像です。 ちょっと滑りが悪いような。糸の縒りも解けやすいような。 この感触はどうしたら好転するかしら?糸染めをすることで少し変わってくるかもしれない。もう一手間加える必要がありそうです。これから考えてみようと思います。

 

次回は染め屋さんに糸を持って行きます。(次回に続く)

 

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現在、葛西さんの仕事を直にご覧いただける展示会が京都で開催されています。 

ISSEY MIYAKE KYOTO KURA展:締(しめ)と絣(かすり)-京の職人たち

会期:2018年11月1日(木)− 28日(水)

会場:ISSEY MIYAKE KYOTO
〒604-8112 京都府京都市中京区柳馬場通三条下ル槌屋町89
Tel.075-254-7540

 

koginbank編集部  text・illustration:石井、photo:岩田・石井、協力:葛西郁子






 


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