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夏休み2017・佐藤陽子こぎん展示館を訪ねて

2017.08.22


夏休みを利用して青森県弘前市の『佐藤陽子こぎん展示館』を訪ねてきました。

長年前田セツ氏(故人)の師事のもとでこぎん刺しを修得し、現在も沢山の作品を刺し続けていらっしゃる佐藤陽子さんは、こぎん刺し愛好者の裾野を広げたいとの想いから7年前にご自宅を改修した展示館をオープンしました。ご自身のこぎん作品や150〜200年前の古いこぎん刺しコレクションを多数公開し、国内に限らず海外からもこぎん刺しを知るために多くの方がこちらを訪れています。

 

 

玄関で佐藤さんに迎えられ、まず最初に目に飛び込んだのはハッとするほど色鮮やかなこぎん刺しのマット。ひし形のモドコが綺麗に並んでいるのかと思いきやよく見るとモドコ同士連続した模様。つい2度見してしまうような知的で錯視的なこの模様は高橋寛子氏(故人)のオリジナル。高橋寛子氏は現在発売中のこぎん刺しの雑誌「そらとぶこぎん」の特集で初めて知りましたが、高橋氏ご夫妻で長年研究を重ねてこられた図案はモダンで知的で今も損なわれない鮮度を感じます。前田セツ氏亡き後、高橋寛子氏の教室に通っていた佐藤さんはその時のご縁から、現在も高橋氏の図案を手書きで起こしホームページで公開しています。

 

このほかにも玄関には、実際にこぎん刺しをされる方ならとても興味深い糸や布の材料の違いや刺し方のコツがわかる作品が展示され、実際に違いに触れて比較しながら見ることが出来ます。2階のスペースまでにも1歩1歩立ち止まってしまう位に小さなこぎん刺しが目の前に現れ、その可愛さがたまらなく楽しく和みました。

 

磨り減った部分を補強するための更に二度三度と重ね刺ししたこぎん。表を見る限りではわかりませんが裏返すと当初の模様がわかります。

 

アバコギンとは、古く汚れが目立つこぎんを藍染めしてリユースするこぎん刺し。年配の女性が着ていたので津軽弁でアバ(=老女)こぎんと言います。

 

2階では古いこぎん刺しを実際に触れ、試着もさせていただきました。この古いこぎん刺しは民俗学者・田中忠三郎氏がコレクションしていたものを佐藤さんが引き継がれた野良着です。擦れて布が薄くなった物を二度三度と重ね刺ししたハギレや古くなったこぎんを藍染めしたアバコギンもあり、当時のこぎん刺しを大切に使い続けていた様子がよくわかります。

 

どれも150〜200年前のものなのだそうです。そんなに古いとは思えないほど状態が良く、さらに貴重な文化財だと思うと遠慮してしまうのですが、佐藤さんがどんどん勧めてくださったおかげで実際に触れることができ、ファッションショーのようにたくさん試着もできました。

 

 

 

見ていただけでは気づくことがなかった麻布の晒しのような薄さと目の細かさには本当に驚きました。最近の綿生地に綿糸で刺すこぎん刺しの温もりの実感とは程遠く、何かを身につけている安心感を得る程度で、当時の麻布に綿糸を刺すことで得られた保温効果の小ささには雪国を生き抜いた先祖へ尊敬の念が湧いてきます。そしてこの布目の細かさは私がこぎん刺しにはまり目の細かい布に挑戦していた時、もうこれが限界だと思った布よりももっと目が細かいのです。昔の人の強靭さへの驚きとその血を受け継いでいるはずの現代人(私)の退化を感じた複雑な心境の一瞬でした。

 

 

古いこぎん刺しを見てもう一つ知った面白さは、模様の間違い探しでした。上の写真で指を指している部分の他との違いがおわかりでしょうか?同じモドコの連続のように見えてさりげない所で少し模様を変えている野良着が稀にあるのだそうです。それがただ単純に間違えただけなのか、それとも自身の証のつもりだったのか、どのような意図で刺されているのかついつい刺し手へ思いを馳せます。時間を超えて当時の刺し手の女性たちと会話できるような面白さがありました。

 

 

ここまで一つ一つとても丁寧に説明してくださった佐藤さん、最後はご自身のアトリエをご案内くださいました。沢山のこぎん刺しの資料や材料、そしてご自身の沢山の作品が並んでいました。佐藤さんはこぎんを刺す楽しみ、見る楽しみなどのこぎん刺しの沢山の魅力を熟知していらっしゃいます。

 

ご自身がこれまで蓄積されてきたこぎん刺しの情報や物を、この展示館を訪ねてこられた沢山の方と共有してご自身も一緒になって楽しまれているように思いました。ご自宅をリフォームされた展示館と言うと小さな器を想像してしまいますが、実際に私たちは3時間半の長時間を佐藤さんにお付き合いいただきました。

 

青森県弘前市の『佐藤陽子こぎん展示館』は、実物を見るだけでなく触れることができます。さらに、こぎん刺しを経験された上での豊富な情報も満載で、こぎん刺しの歴史から最近の実状まで広く知ることができます。こぎん刺しを知るにはまずここを尋ねるべしです!

 

取材:koginbank編集部 text/photo:石井

 

『佐藤陽子こぎん展示館』について

〒036-1323

青森県弘前市大字真土字東川199-1

電話&FAX 0172-82-3367

 

JR弘前駅よりタクシーで約15分。車でのルートはこちらのアクセスページを参照ください。

 

弘前市街から岩木山を眺めつつ岩木川を渡り、昔ながらの集落の中に入ってすぐこの展示館の看板が見えてきます。表向きは一般的な住宅なので看板が無いと気づかない場所ですが、この行くまでの道のりだけでも穏やかな地域性を感じながらこぎん刺しを訪ねに行くというのも乙です。

 

入館料:500円

見学は事前予約制です。上記電話、FAXでのご予約又は下記リンクから予約申し込みが可能です。

 

http://youko-kogintenjikan.com/contact.html

 







 


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