こぎん出身です。〜ひねさんのこぎんブローチ〜

イカとタコが脚と脚をとりあって、Shall we dance?
念願のこぎんがカナダから届きました。これは、水島ひねさんの作るこぎんブローチ。
少年の世界をこぎん刺しが、こんなにもポップで、愛嬌溢れる世界に変えられるのだと、彼女の作品を見て衝撃を受けた日は今から1年前のこと。ようやく手に入れたブローチは、ビジュアルはもちろん、箱を開ける瞬間も、触れた感触も、ブローチの仕立ても。手にした一瞬一瞬が素晴らしく感動ばかりで、とっておきのアートを手に入れた気分でした。
koginbankとしては、こんな楽しい世界をこぎんで作る人にはどうしても話を訊いてみたい!でもカナダは遠い〜っ!ならばメールで!と思い、恐るおそる尋ねてみたところ、快く引き受けてくださいました。
水島ひねさんは、神奈川生まれ。美術大学で日本画を専攻ののち、東京でイラストレーター/デザイナーとして勤めてから、ローマ、パリ、NYと移り住み、11年前からカナダのバンクーバーにお住まいです。こぎん刺しの作品以外にも、フェルトスカルプチャーや、ミニチュアコラージュ作品は、欧米のメディアでも多数紹介されています。
今回の取材はメールででやりとりさせていただきました。そのメールで頂いた質問への回答をここに紹介します。
質問1:こぎん刺しをはじめたきっかけを教えてください
バンクーバーに、カナダの日系の歴史や、文化の紹介や、イベントを開催をする施設があるのですが、1年半くらい前に、1回限りのこぎん刺しワークショップがあることを知り、こんな機会は滅多にないし、刺繍に興味があったので、すぐに参加の申込みをしました。
この時点で、こぎん刺しのことは恥ずかしながら「日本に昔からある刺繍技法」程度しか分かっていなかったので、ワークショップ前に調べてみて、左右に刺していくことや、伝統柄があることも初めて知りました。すごく楽しみにしていたのですが、ワークショップ直前に、家族の入院で急遽帰国することになり、結局参加できませんでした。
帰国中は、入院中の家族の付き添いで、あまり遠出することもできず、かつ仕事もできず、暇で何か作りたくてウズウズしていました。そんな時、地元のユザワヤでこぎん刺しの可愛いくるみボタンキットなるものを見つけて、これならハサミさえあれば出来そう、ついでに新しいスキルが身につくかも!?とわくわくしながら即購入しました。
何個か図案通りに作ってみたら楽しかったので、これを応用してオリジナルのイカデザインでブローチが作れないか試作してみたら、ドット絵やインベーダーゲームみたいでなかなか可愛かったので、さらに本や材料を購入して「こぎん沼」にジワジワとハマっていきました。インスタグラムの投稿でも評判が良かったので、調子に乗ってタコブローチも作り始め、数週間後にバンクーバーに戻ってから、自分のEtsyオンラインショップにすぐに出品していきました。
※Etsyはアメリカに拠点を置く、世界最大級のハンドメイド販売サイトです。
質問2:オンラインショップでは即完売のブローチですが、お客さんが多い国はどこですか?
以前は主にアメリカと日本の方が半々くらいでしたが、最近はEtsyが日本語対応になり、ブローチを日本のイベントや企画展にも出品しているせいもあり、日本の方が多くなりました。これはすごく嬉しいです。リピーターの方も結構いらっしゃいますし、男性も時々買って下さいます。
(編集部談)実はこのブローチが欲しくて、ずっとひねさんのオンラインショップをチェックしていたのですが、何度も買いそびれました。どうも、オンラインショップで販売される度に、24時間以内に完売してしまうようなのです。この人気ぶりにとても驚きましたが、実際のブローチを手にしてみると、コレクションしたくなります。リピーターさんの存在には凄く納得です。
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ひねさんは昨年、NYを拠点に活動するミュージシャンThey Might Be Giants のミュージックビデオをこぎんアニメーションで制作しました。こぎん刺しで、アニメも作れるなんて前代未聞!1コマ1コマこぎんを刺していくのだろうか?想像つかない果てしない世界。しかし実際の映像は、1目1目の動きのなんとも言えない可愛さに、大変な制作があったことを忘れてしまいます。でも、どんな苦労があったのか気になります。。。
質問3:制作期間とアニメのために制作したこぎんの数はどれほどの量になりますか?
刺繍のアニメーションはもちろん初めてで、2Dアニメーションの知識もゼロだったので、そもそも何をどうやったら自分の作りたいものを形に出来るのか?から始まったのですごく時間がかかりました。
映像の依頼を頂いたのは納品する6ヶ月前でした。実際の動画制作期間は、刺繍1ヶ月+Photoshop1ヶ月+動画編集1ヶ月の合計3ヶ月間でしたが、それ以前のアイデア出し、ストーリーボード、キャラクターデザイン、こぎん布と糸の染色、図案おこしと刺繍の試作、(今さらの)Photoshopと動画編集ソフトの勉強、アニメーションテストなどを含めると、総制作期間は4ヶ月以上かかったと思います。
小さな仕事部屋で猫に見守られつつ、家族に泣き言を言いつつ、朝から晩まで全部一人で制作しました。あえてGIFアニメっぽいシンプルな動きにしたかったので、刺繍の量はアニメーションにしてはそんなに多くはなかったと思います。
※制作の様子はこちらでご覧いただけます: https://www.behance.net/gallery/68511519/Video-Lake-Monsters-
刺繍自体は好きなので苦にならなかったのですが、苦手なデジタル作業を期限内に理解して慣れるまでが大変で、灰になりそうでした。メインキャラクターや小さな動植物など基本の刺繍を別々に全部刺してから、スキャナーで取り込んで、それぞれの素材をPhotoshopで背景を透明に切り抜いて、それをレイヤーごとにコピーペーストして動かしました。
実はクライアントであるThey Might Be Giantsからこのお仕事を頂いた時、当初は先方も私も、いつものフェルトのストップモーションアニメでやるつもりでした。でも急遽気が変わってしまい、「やったことないけどこぎん刺繍でアニメーションやらせて下さい!たぶん世界初、いや宇宙初ですから!」と大きなことを言った私に、100%好きにやらせてくれたのは本当にありがたかったです。
質問4:完成した映像に対する周囲の反応はいかがでしたか?
SNSで色々な国の方からポジティヴなコメントをたくさん頂きま<したが、やはり刺繍で制作したと言うことで驚きの反応が多かったです。
実は場面が早く切り替わってしまうので、ストーリーやディテールが分かりにくいかな?と心配だったのですが、GIFアニメっぽくしたおかげか、「うっかりビデオを何度も繰り返し観てしまう!」と言う人たちが結構いたので、しばらくは曲が頭から離れなかったと思います。あと、公開してすぐに、アメリカだけでなく、英、仏、独、伊、その他の国のアート&デザイン関係のウェブサイトでもビデオを紹介してもらえて嬉しかったです。
質問5:使われている材料は日本製ですか?カナダではどんな材料を使っていますか?
カナダではいっさいこぎん材料が手に入らないので、材料は日本製です。帰国時に買ったり、カナダから日本のオンラインショップで注文して実家に送ってもらい、数がまとまったら実家からカナダに送ってもらっています。とは言っても、大手メーカーの商品以外はオンラインで買えるところも限られているので、動画作成時を機に白地のこぎん布や糸をまとめて買って、自分の好みの色に染めたものも使うようになりました。
あと、カナダの細い毛糸も試してみたら意外にも使えてしまったので、手染めのソックヤーンのミニかせを買って時々取り入れています。ウール糸は発色がとても良くて、柔らかで滑りも良いので使いやすいです。ブローチには、日本製の小さなデリカビーズも使っているのですが、これはカナダでも扱っているお店がいくつもあったのでラッキーでした。今後もこぎん糸だけにこだわらず、いろんな素材を試してみたいです。
とは言え、目下の夢は、憧れの青森のお店や、こぎんイベントに行って、こぎん材料を気が済むまで買いまくり、伝統的なこぎん刺し作品を生で見ることです!
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こぎんを刺す面白みの1つは、横にしか縫わないという拘束ルールで、いかに自由な世界を拡げていくかなのだと思います。こぎん刺しには、農民の衣類に施された多くのモドコが伝統のモチーフとして存在します。この伝統からどこまで自由に、遠くへ飛べるかに挑むことは、案外難しい冒険かもしれません。しかし、その難を超え、遠く離れたところで、それぞれの素敵なこぎんが咲き、そのこぎんに魅了された人の中から、こぎんのルーツを辿る人が現れたら、こんな嬉しいことはありません。
こぎんの新しい世界を切り開いた人たちが「こぎん(kogin)」のワードで活躍することは、自ずと伝統に光を当てています。こぎんのみならず、両極の存在はお互いに引き立て合い、一つの世界を楽しく盛り上げて行けるのではないかと改めて思いました。
水島ひねさんにはとても丁寧に質問に沢山お答えいただき、作品の画像提供もいただきました。心より感謝申し上げます。
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ひねさんの作品は次のお店で実際にご覧いただけます。ぜひ足を運んでみてくださいね。
5月中頃開催の企画展にひねさんのブローチが並びます。
4月17日(水)〜5月13日(月)まで企画展「標本の王国」開催中です。
ひねさんのブローチのほか、フェルト作品も展示しています。
企画展の詳細はこちら:http://blog.ranbu-hp.com/?eid=1315
ひねさんの最新情報はインスタグラムでもどうぞ!
https://www.instagram.com/p/BtnDq5JnxyJ/?utm_source=ig_web_copy_link
text・photo:koginbank編集部 石井、協力:水島ひね