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vol.7 こぎん刺しの糸を知る2

2018.10.26


前回、「こぎん刺しの糸を知る1」ではこぎん刺しの作家さんに、どんな糸を使っているのか教えてもらい、こぎん糸以外にも刺し子糸や刺繍糸も便利なこぎん用の糸として使われていることがわかりました。

今回は「こぎん糸」として売られているものを集めて違いを比べてみました。今は糸メーカーだけでなく、個人で独自に染めて販売している作家さんも多くいらっしゃいます。いくつか集めてみてわかったのは、”こぎん糸”として販売されている糸は、細い糸(単糸)を10本縒り合わせる仕様が多く、またこの同じ仕様でも質感や仕上がりに違いがあることがわかりました。

 

 

糸メーカーのカタログは糸の太さのバリエーションが豊富で比較参考にとても便利。糸はある太さの細い糸(単糸)を数本撚り合わせて1本になっています。このカタログでは糸の脇に掛け算式のような数字が並んでいますが、これは「◯番単糸×◯本合わせ」で撚っている糸という意味。単糸の数字が大きいほど、単糸は細くなっていきます。このカタログでは単糸が10番と20番のみでしたが、ここにこぎん糸を並べ比べてみると、こぎん糸は20番単糸で10本前後の撚りあわせが多いことがわかりました。

 

カタログの記号に倣って調べた糸の仕様を記載しました。10番単糸が1本だけ。他は20番単糸と思われます。

 

しかし、この太さと合わせ本数が同じでも、撚り具合や染料、仕上げの工程の違いで感触や見た目が異なり、これが刺し子の仕上がりにも影響します。例えば、しっかり撚りをかけたものは固くて正に太い1本の糸という感じで、刺していても撚りが解けにくいのでステッチの仕上がりは一定してきれいです。下の画像の黄土色の糸が撚りがしっかりかかった堅い糸です。

 

 

黄土色の糸の上に並ぶグレーの糸は、黄土色に比べ柔らかい感じで、撚りも少し緩め。これはログウッドという草木染めの糸です。木質系の天然染料の糸は触媒に鉄分が入るので、その影響かザラついているような固い感触があります。この糸もステッチの仕上がりは終始乱れることなく綺麗に仕上がりました。

 

柔らかい糸はどれも束が乱れてしまい、仕上がりにも響いてしまいました。

 

 

上の画像では糸の束の乱れ方が激しく、単糸がところどころ飛び出ているのがわかります。

 

このような時は針に残っている糸が下のように糸が部分的に飛び出てしまいます。この飛び出た1本を整えるのは結構大変です。

 

 

 

少しボケてしまっていますが、上の画像の下の段の紫のグラデーション糸は、並んだグレーや黄土色に比べるとステッチのテクスチャーが均一になっていません。糸束の中に空気が入り、糸が布を通るたびにフカフカ膨らみ、それも糸が乱れる原因なのかなと思いました。そしてもう一つ考えうるのは、染色の工程で手染めの糸の場合、染めた後の干し方で仕上がりに少し縮れが入ってしまう場合があります。織糸として使う糸ならば、機を通す時の張力で解消される縮れですが、刺し子の糸となると、その解消法は刺し手の技量次第になります。

 

しかし、この技術は誰でも見様見真似で始められるコツでした。ポイントは、針の動かし方と糸扱き。

 

「糸扱(こ)き」とは、布を縫い合わせたあと,縫い目に沿って指先でしごき,布がつれないようにすること。

 

布の目を一針ひと針掬い上げて刺していては、布による糸の摩耗や引っかかりの頻度が高く、上のように糸がどんどん乱れてしまいます。運針のように横に横に針を通していくと布の中をすり抜けていく糸の摩耗や引っかかりが少なくなります。そして1段刺し終えたら糸扱きをする。少し力を入れて引っ張り気味に糸扱きを入れてみたら糸目が乱れることなく、糸のふっくらした風合いがステッチに綺麗に反映できました。糸扱きの後にふっくらとステッチが浮き上がり現れる瞬間は快感です。

 

紫の糸上段:運針のように針を動かし、1段ずつ糸扱きを施した状態。 紫の糸下段:一針ずつステッチを掬い縫いした状態で糸扱きはしていない。

 

昔こぎん刺しを教えてもらった時に、糸扱きをするようにとよく言われたことを思い出しました。あの時はピンとこなかったけど、こんな仕上がりの違いが出てくるんですね。今更ですがこの一手間の大切さを思い知りました。そして柔らかい糸で刺す楽しみも知りました。最初はどれも同じと思っていましたが、実際に使ってみると同じ仕様でも随分個性があります。考えてみると糸も染料も植物から出来ているのだから野菜と同じようにその時々で出来が違ってくるのは当然のこと。糸は千差万別。糸との出会いは一期一会なのかもしれません。

 

・・・

 

色々とこぎんに使う糸を見てきましたが、私には一つ印象深く記憶しているこぎん糸がありました。それは、昨年大川さんのお宅で見せていただいた、古いこぎん刺しのベストです。実物は古さを感じさせない上質な印象があり、最近のこぎん刺しとは違う紳士服らしい堅さも感じました。この上質さを感じさせるポイントはなんだろうとしげしげ写真を見て注目したのは刺し糸の撚りでした。

 

 

ベストを拡大して見ると、糸目に綱のような糸の撚りがくっきりと確認できるのです。最近のものではこのようにはっきり認識できるような撚り方の糸は見受けられません。こぎん刺しの糸は昔と今では仕様が随分違うようです。

 

 

糸は撚り合わせる本数が少ないと、合わせて束になった糸表面の凹凸が顕著になります。その凹凸に影ができて糸の撚りは目立つようになるのだそうです。なんだか分からないけど他とは違う上質さを感じたのはこの糸の影によるものかもしれません。細かすぎて人目には気づかれないような事かもしれませんが、この細かい影がこぎん刺しの仕上がりに深みを持たせるのだと思うのです。

 

 

”糸の陰影”。これは興味深いと思いました。面白い糸なのではないかと思うのです。

こぎんバンクでは、自分たちでこぎん刺しの糸を作ってみようと考えていました。そこで、この大川さんのベストに倣い、古作の糸を復元して作ってみることにしました。糸を作るにあたり色々と調べてみると普通に糸をお店で買っているだけは知り得ない糸の世界の現状を知ることもできました。次回からは糸作りの経緯を少しずつお伝えしていきます。

 

koginbank編集部  text・photo・illustration:石井

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