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山端さんのkogin works

2020.12.27


前回に引き続き、東急プラザ銀座でクリスマスイルミネーションを手がけられた、kogin.netの山端家昌さんの2020年の活動とともに、グラフィックデザイナーとして、現代に生きるこぎん模様を「kogin」とし、こぎんを布から様々な表現に展開している山端さんの活動のベースを伺いました。

 

アクリルの小さなこぎんツリーは今年初めて作ったそうです。かわいくてとてもきれいでした

 

山端さんのこぎん刺しとの出会いは、高校生の頃に見た田中忠三郎のこぎんコレクションの展示で、織物かと思うほど緻密な模様に驚くとともにファッションとしての凄さを感じたそうです。山端さんは、青森県で唯一服飾デザイン科のある弘前実業高校に進学したくて親を説得し、青森の南部地方から単身15歳で津軽地方へ。高校には下宿しながら通っていました。そんな、ファッションに情熱を注いだ山端少年が、こぎん刺しを見て抱いた衝撃は、並大抵のものではなかったと思います。

 

この夏、青森県の白神山地保全イベントで参加者にプレゼントされた手ぬぐいは西こぎんの古作模様に倣い、首に巻くと肩に縞模様が入り、背中には魔よけとして用いられたさかさこぶの模様も入る凝ったデザイン

 

この手ぬぐいは3色あって、どの色も素敵でした

 

高校卒業後は服飾の道には進まず、東京の日本デザイナー学院でグラフィックデザインを学びます。しかし、ここで3年時の課題研究に選んだのは、高校の時に見たこぎん刺しでした。1年の時間を与えられたこの課題研究で、青森に通いながらこぎん研究や制作にじっくり向き合うことができました。

 

シンガーソングライターの佐藤竹善さんが出身地青森で開催するHomecominng Liveでは青森らしいグッズをということで、竹善さんならではの竹の節模様をデザインしたグッズになりました

 

社会人となり、広告関係の仕事に就きながらこぎんの研究活動を続け、kogin.netとして、青森での作品展の開催やインターネットでの発信をはじめます。恐らく、こぎん刺しのモドコや模様の魅力をインターネットで発信したのは山端さんが初めてではないでしょうか。

 

最初のころは、こぎん刺しの偽物を作っている、邪道だとの否定的な声がありました。山端さん自身がやりたいのは古いこぎん刺しの模様を残すこと。かつては生活の必須アイテムだったこぎん刺しの着物はもはや過去のもので、現代にその需要がありません。しかし、こぎん刺しの着物の素晴らしさをアーカイブしても、この重要な要素である模様を現代の生活の中に活かすことができる。自身の制作の核たるこの想いをグラフィック制作だけでは伝えることができませんでした。

 

山端さんの大切な営業ツール。こぎん刺しと自身の活動を紹介するこのチラシは出会う人に手渡しています

 

しかし広告制作の仕事の中で、広告は人が見た瞬間の3秒で脚を止めてもらわないと意味がないと教えられ、なおかつ正しく意図を伝え、人の心を惹きつけるデザイン提案を様々な媒体で数多くこなし鍛えられたことで、こぎんの活動や制作の中でも魅力と想いを伝えることに活きてきました。

 

仕事の上で欠かせない名刺も、折って楽しんでもらう工夫が。鏡富士ならぬ鏡こぎん

 

高校生の時のこぎん刺しとの出会いから数えると、もう20年もこの世界に携わっています。今では活動は多岐にわたり、星野リゾート 界 津軽の内装監修やイベントの開催、書籍の出版、こぎん教室の講師など、グラフィックデザインに限りません。今年も青森で昨年から継続して開催された「こぎんのいま」展からはじまり、3月には前回の盛況ぶりから大きな期待が集まった、2年目のこぎんブックマーケットが開催するはずでした。

 

しかしコロナウィルス感染拡大でやむなく中止をすることに。いろんなところで落胆の声を聞きましたが、山端さんは自身が講師を務める講座の生徒さんたちの集大成を発表する場でもあったので、彼らのモチベーションが下がってしまったことが気がかりだったようです。今だにコロナ禍の終息が見えず、来年も残念ながら開催は見送られましたが、再来年のこぎんブックマーケットは開催するべく状況を見定めています。

 

コロナ禍で活動が滞る中、山端さんの制作はコンスタントに続いていて、昨年から年2回の発行ペースで進めている古作こぎんの写真集は先日シリーズ第4弾が発売になりました。

 

発売直前の取材だったので、ゲラ版を見せてくださいました。

 

青森県文化財指定(旧稽古館所蔵)の古作こぎんの着物をすべて写真におさめ、5年間で全10巻発売する計画で制作を進めています。模様が読めるように精細に撮影された写真集は好評で、通常博物館では見ることのできない着物の裏面と表面を見比べられるように、オモテとウラの2冊セットになっています。着物裏面にはポケットがついていたり、着物の仕立方など当時の生活感を垣間見る貴重な写真集です。これまでもたくさんの古作から図案を集めてきた山端さんですが、まだまだ見たことない図案がこの写真集の撮影で見つかったそうです。

 

第4弾初版特典には古作こぎん柄のマスクケースが付いています。

 

写真集に掲載された着物の図案集も写真集を追いかけながら随時発売しています。こちら古作こぎん図案集はVol2までが発売になっています。写真集と見比べるだけでなく、模様のパターンを抽出したり、分解して見せたりすることで、着物からは気づかない新鮮な発見があったり、こぎんを刺す人たちが自分流にアレンジして楽しめる図案集になっています。

 

 

写真集第4弾の特典のマスクケースは、こぎん模様の裏と表ならではの色の反転をした切り替えが効いていて、とても素敵な印象のケースでした。古作の大きな模様もこんな風に日常生活を彩ることができます。そして、プリントだからこそ手軽に人の意識をこぎんに惹きつけるツールにすることができます。しかし山端さん曰く、模様だけでは人を魅了できません。こぎんの背景を理解し、リスペクトがあるからこそ人を魅了するデザインができる。これは長年のこぎん研究と、広告業界での経験を持つ山端さんの得意技であり、これでもって、こぎん刺しへの認知を広め、盛り立てることが自身の役割なんだと仰っていました。

 

 

~田中忠三郎コレクションについて~

田中忠三郎(1933-2013)は青森県の民俗学者で、江戸から昭和にかけての青森の民具の収集・保存をしてきました。襤褸(ボロ)をはじめとする彼のコレクションは2万点に及び、そのうち786点が国の重要有形民俗文化財に指定されています。2019年3月に閉館したアミューズミュージアムでは彼のこぎん刺しや襤褸コレクションを展示していました。

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インタビュー:koginbank編集部 text:石井、photo:鳥居






 


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