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こぎん刺しの布を作る

2021.02.23


この度、koginbankではオリジナルのこぎん布を企画・販売いたします。
こぎんの布は平織りのシンプルな組織ですが、糸が太く荒いためか特殊な布のようで、対応できる工場が限られます。その上、着物の反物と同じ小巾での生産は、着物の需要が厳しく廃業も増えていると聞くこのご時世に、こぎんの小巾布を織ることができる織機なんて存在しないかもしれないと思いました。しかし、奇跡的なご縁をいただきこの布をつくることができました。私ども素人に対して懇切丁寧に布の組織を教えていただいたお陰で、こぎん刺しを楽しむ布とはどんなものかをじっくり考えることができました。本記事では今回の製作で着目したポイントを紹介いたします。

 

なぜ小巾の布をつくるのか

一般に手芸店で購入する布の幅は大体70㎝〜150㎝程でしょうか、これら広巾に対し着物の反物の巾を小巾と言います。約36〜38㎝の幅です。この小さい幅ではつくるものが限られてきますが、バッグやポーチ、アクセサリーの制作はまかなえます。また、菱刺しの伝統的な前垂れを仕立てる時には小巾の耳(布端)を活かして綺麗に仕上げられます。

 

以前取材させていただいた南部菱刺しの会で見せてもらった前垂れ。布目が荒いので注意しないと縫い合わせがほつれてしまいます。でも布の耳が上手く縫い合わせに持ってこれたらほつれの心配がなくなります。

 

着物にしか活用できないと思っていた小巾の布は手芸布としていろいろメリットがあると思いました。

◇小物制作に適したサイズ

◇布の耳(布端)を活かした仕立て
 (A4サイズのブリーフケースやタブレットケースも綺麗に仕立てることができそう)

◇家庭のテーブルでも広げられるサイズ

◇裁断手間が減る

◇持ち運べるサイズ

布の面積当たりの単価を比較すると、小巾は広巾に比べると割高になりますが、楽しく刺し子した後の製品仕立に悩む時間が少し減るかもしれません。布を販売する側としても、コンパクトに持ち運べるのでイベント等に気軽に出向くことができ、真っ直ぐ裁断する緊張が短く済むのは嬉しいメリットです。これらは小巾であることの付加価値になるのではないか?そんな訳で小巾の布をつくることにしました。

 

初心者が使いやすい布をつくる

こぎん刺しや菱刺しは平織りの布であればどんな布だって楽しめる手芸です。しかし、せっかくつくるなら、初めてトライする人をこぎん沼に誘うくらいの布にしたいです。スイスイ針を動かしたら綺麗な模様が出来上がった!となる布にしたく、次のようなポイントに着目し仕様を決めました。

 

 

◇しっかり布目を数えることができること
 こぎん刺しや菱刺しで布目を数えるとは、布の経糸を何本跨いで刺し糸を渡すかということから経(タテ)糸を数えます。目視で数えやすいことは然り、針先の感触でも数えることができたら眼もラクです。針先が布に引っかかることなくスムーズに経糸の凹凸を感じながら数えることができるよう、断面が丸く堅い糸を選びました。

 

◇作った模様がはっきり見えること
 ガーゼのように布目が大きいと、針の通り道は明快ですが、裏に渡る刺し糸も透けて見えてしまい、模様がぼやけてしまうことがあります。裏を見通せないように布目を塞ぎつつ、針を通しやすくするために緯(ヨコ)糸は柔らかい太巾にしました。

 

◇手に握りやすい適度な固さと厚さ
 布の厚みは交わる経糸と緯糸の断面によります。この2つの糸の柔らかさを調整して、刺し子の時は握りやすい厚さでいて、厚すぎず製品に仕立てやすい厚さを考慮し調整しました。

 

 

◇1目がくっきり浮き上がること
 布に伸縮性を持たせ、針を通した後に少し引っ張ることで刺し目を浮き出すことができ、糸コキの効果が出やすくなるようにしました。

 

 

これらのポイントを踏まえて緯糸密度の違う三種類を試しに織ってもらいました。

 

どれも経糸の密度は同じで、3センチ当たり23本です。(1センチ当たりの密度では三種類とも同じになってしまうので、3センチ当たりの密度で算出です。)

①緯糸密度17本(間隔1.7㎜)

②緯糸密度18本(間隔1.6㎜)

③緯糸密度19本(間隔1.5㎜)

 

 

この三種類の布に模様を刺すと、模様の縦長比はヨコ幅1に対して次のようになりました。

①モドコの縦長比1.25

②モドコの縦長比1.15

③モドコの縦長比1.10

針を通してみると0.1㎜の緯糸間隔の違いは大きいことでした。①では経糸がブレやすく刺しづらく、ストレスフリーな運針を考えると、最も布目が動かず安定して刺せる③を採用することになりました。

 

糊加工について

 

布に糊付けするとパリッとして最初は刺しやすいけど、刺しているうちに糊がとれ、柔らかい布に戻ってしまいます。ならば糊付けなんて最初から要らないのでは?その分コストも下がるのです。でもこれはとても大事な加工でした。

 

上が糊加工後、下の糊加工前の状態はとても柔らかく針を通すと布目が歪むほどでした

 

糊加工をすると経糸と緯糸交差が密着して組織が固定され、針を通しやすくなります。刺しているうちに糊が取れてしまいますがそれと同時に刺し糸が緯糸の間に入って布目がつまり、安定していきます。糊は刺し始めのサポートになります。

また、糊付けによって布が縮み伸縮性ができました。この伸縮性が1目の刺し模様をくっきり綺麗に浮き出すコツにつながります。

 

 

そんなこんなで仕様を詰めて試作を経て布が3色出来上がりました。

 

 

色は青・朱・未晒しです。koginbankのロゴマークの色とオリジナルクラフトテープの色を採用しました。青も朱色もスモーキーな少しくすんだ色味が他では見かけない、いい感じの色味です。こぎんの布は市販の手織り機でも気軽に作れる平織りの布ですが、考えてみると奥が深く、こぎんを手芸として普及させるために開発した往時の苦労は並大抵の事ではないことを垣間見た思いです。

 

こぎん刺しに関わっていると、布を探し求めている声が聞こえてきます。しかし、市場にも無い、つくってもらえる工場もなかなか見つからないということは、繊維業界でその布の需要はとても小さいのだと思います。供給側を維持し続けるだけの需要が無いということなのだと思いました。需要と供給のバランスがとれないまま淘汰され、布が無くなり、こぎん刺しや菱刺しの文化まで無くなってしまうかもしれない危機感をうっすら感じています。この危機を回避するために需要を増やすことが大切ですが、それだけではなく、需要に見合ったコンパクトな供給隊をつくるということも今後考えていかなくてはいけないことかもしれません。需要と供給のバランスを取りながら循環を繰り返して行くことが文化の継承にもなるのではないでしょうか。

 

今回製作したこぎん布はkoginbankオンラインショップから購入が可能です。

※※合計金額¥3600以上お買物いただいた方には、
  送料無料+素材博覧会オリジナルミニゴーフルをプレゼントしています。
  ゴーフルは数に限りがございますのでご了承ください。※※

 

koginbank編集部 text・photo:石井






 


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