koginbank

こぎん刺しの楽しい!かわいい!を発信 こぎんマガジン

こぎんと菱刺しの奇数と偶数の話

2021.08.31


こぎん刺しと菱刺しの一番の違いは、模様を構成する目数にあります。
こぎん刺しは1・3・5・7…と奇数の目数で構成されるのに対し、菱刺しは2・4・6・8…の偶数の目数で模様が構成されています。そのために菱刺しの型コ(菱形のモチーフ)は1段ずれるごとに2目ずつ増減するので横長の菱形模様になり、一目でわかるこぎん刺しとの違いでもあります。しかし、なぜにこんな違いが生まれてきたのでしょか…?

 

そのことに関する一つの考察が、昭和38〜39年の青森県の地方紙・東奥日報の連載「みちのくの造形・刺しこぎん編」にありました。陶芸家であり、こぎん刺しの研究者でもあった高橋一智氏のこぎん刺しとの出会いから図案に関する一連の考察が纏められた連載です。高橋氏は夫人とともに試行錯誤を重ね、多くの斬新なこぎん図案も残しました。それらの図案は現在、佐藤陽子こぎん展示館のサイトで公開されています。

 

 

こぎん刺しのはじまりは、菱刺しと同じく偶数の目数で模様を構成する刺し子だったと考えられています。その根拠は、こぎん刺しが描かれた最も古い記録とされる『奧民図彙』。1788年に津軽藩士の比良野文蔵貞彦が津軽藩の農村の暮らしを記録しまとめた書物にあります。この中のサシコギヌという着物の模様のスケッチは、どの着物も横長の菱形が並んでいます。特に図上の着物にある亀甲型模様は奇数目では成立し難い形です。

 

『奧民図彙』よりサシコギヌ
『奧民図彙』よりサシコギヌ

 

このサシコギヌの模様がどのような経緯で縦長の菱形を形成する奇数目構成に変わっていくのか?高橋氏によると、偶数目で構成されたモチーフをつなげて大きな展開模様を目指すとどうにもならない困難が立ちはだかるのだとか。実際に四枚菱(菱刺しでは四つ菱)の図案を使って考えてみました。

 

上の図は、田の字型の重ね四枚菱。図右にある奇数目構成で枠を3目から5目に1サイズ太く変えた場合、最も幅の広い段(目立て)を通る3つの枠線が太くなった分だけ全体が大きくなります。偶数目構成では枠を4目と、1サイズ太い6目で考えてみました。図の左上の枠6目では難なく出来たものの、その右下の枠4目では3方に分岐する部分が成り立たず、白抜きの4つの菱形が同じ形になりませんでした。

 

ちなみに、従来の菱刺しの型コは必ず外枠が強調されるように枠の内側4目を空けて枠内の模様が構成されます。この例にあるような枠のない田の字のモチーフは昔からあった図案なのか定かではありません。

 

次の図は合わせ四枚菱です。並ぶ菱形の隙間(飛び筋)を1サイズずつ広げて検証してみました。偶数目で構成する場合、中央の飛び筋を”2目”や”6目”にすると綺麗な合わせ菱になりますが、”4目”にすると合わせ菱を形成できず歪になります。偶数目構成では、「4」という数字がサイズ展開で立ちはだかる、なにやら曲者…?な数字ですね。こぎん刺しのような奇数目構成では、サイズ展開により模様が破綻することなくスムーズに展開できるので偶数目では実現できない自由な表現を獲得できたと考えられました。

 

 

個人的には自由というか、奇数目は考えやすいと言った方がしっくりきます。1段ごとに1目ずつズレて造形し、モドコのサイズ展開は奇数の正則で展開するので数えやすいのに対し、偶数目の構成は、サイズの展開が2・6・10…と2+4(x−1)で変化(高橋氏はこの数字を構造係数と定義)するので、4の倍数を考える必要があります。さらに、模様の要素になる主要な目数が”4目”で、これはサイズ展開の構造係数にはない数字(除外係数)で、この数を取り込んで模様構成のを考えるのは難易度が高いように思えます。

 

江戸時代の農村の子供たち、特に少女たちが計算や読み書きをどれだけ習得していたのか、恐らく、このような刺し子を通して数えることを覚える時代だったのではないでしょうか。となると、奇数目構成の方が針を動かしながら数えやすいと感じます。そして、数えやすいと模様の展開も考えやすく、自由な表現につながるのではないでしょうか。東こぎんのようなダイナミックな模様展開はそんな成り行きで進化してきたのかなと思います。

 

東こぎんの展開模様。無限に広がる格子の中に菱形のモチーフが埋め込まれているような模様展開は奇数目の構成があってこそと考えられます。

 

とはいえ、偶数から奇数に転換するのはかなり大きな飛躍とも思えます。豊穣な稲作地帯であった津軽の農民は南部に比べると生活に余裕があったといわれます。特に嫁入り前の少女たちはこぎんに打ち込む時間がありました。そして津軽藩では色物を禁じられていたともあり、模様の展開を追求するより発展する方向が無かったのかもしれません。幕末から明治になる頃には、今のような縦長の菱形で構成するこぎん模様がありました。「奧民図彙」からおよそ80年の時を経て徐々に奇数目に進化してきたというのは何か違う気がします。新しい方向を探る悶々とした中で「目からうろこ」的な奇数目発見!の出来事があったのではないでしょうか。個人的願望ですが…その瞬間に立ち会いたいです。

 

また一方で、南部藩の菱刺しは色糸を使うことができ、枠の中に収まる無限のモチーフとで多彩に発展しました。いろいろ想像を巡らしてみると、文化の醸成には気候環境やその土地の政策が影響していることを、この考察を通して実感します。瞬時に情報が飛び交うこれからの社会では、このような新しい地域文化って生まれてくるんでしょうかね。一抹の寂しさを感じます。

 

さらに高橋氏の考察には、重ねや合わせが正則に展開できない偶数目構成を、目立てを二重にすることで、こぎんのような模様の展開ができるのではないかという興味深い提案がなされていました。

 

模様の幅が最も広い段(目立て)を二重にすることで、自由度が増すというのです。確かに、枠4目で構成する四枚菱の重ねも合せもできるようになりました。しかし、枠6目の四枚菱重ねは作ることができません。上の図では、6目の枠の中の十字のラインは4目で構成されています。

 

それでも、枠4目の重ねを展開して格子状に無限に模様を広げることができると表現が広がりそうです。しかし目立てを二重にすると模様の段数は偶数になります。これは従来段数は奇数になる菱刺しとも、こぎん刺しとも違うので、残念ながらこの案は、どちらとも違う第3の道を開拓していかなくてはなりません。希望に満ちた案ではありますが…。

 

koginbank編集部 石井勝恵






 


トピックスの最新記事一覧



 

こぎん情報募集中!!

koginbankでは、こぎん刺しのイベント・教室・グッズ・モドコなどの情報を随時募集しています。
詳しくは、お問い合わせフォームにアクセスしてください。