koginbank

こぎん刺しの楽しい!かわいい!を発信 こぎんマガジン

地刺模様の話

2021.12.02


地刺し®️(ぢさし)という言葉ご存知ですか?
こぎん刺しや菱刺しには菱形のモドコや型コの他に、小さな単位模様を繋いでエンドレスに広い面に展開する模様を地刺し®️と言います。そもそも地刺し®️は布を重ねて運針を施し、布の補強や耐久性を保つための針仕事でした。刺し子やこぎん以前から存在し、これらの起源とも考えられています。現在の地刺し®️と言われるものには模様が様々ありますが、昭和の初期にこぎん刺しを研究していた高橋一智氏の記述によると、模様の動きを示すものは地刺し®️とは言わないとあります。こぎんの着物の肩の部分の縞や、裾の部分の単調なステッチの繰り返しがそもそもの地刺し®️であるようです。

 

着物の背面。肩のボダーラインや模様の下端、腰の部分が単調なステッチを重ねた地刺し®️で構成されています。

 

こぎん刺しの着物は裾の部分もびっしりと黒糸で運針を施しているものがあります。これも地刺し®️です。

 

こぎん刺しは、麻布を重ねて麻糸で運針を施すところから始まったと考えられています。しかも、目数を数える”つづれ刺し”という技法の地刺し®️で、ノベラサシやメクラサシと呼ばれていました。当時から定石として布目を2目渡るステッチルールがあったようです。こぎんの着物を見ると、肩の部分の縞のステッチは2目で構成されていることが多く、個人的には、こぎん刺し=奇数目という認識が根底にあるので、この地刺し®️の2目に違和感を抱いたのですが、むしろ古来の技法がここに残っていたと考えると妙に腑に落ちます。

 

上図のように、ステッチの密度を二重布につづれ刺しで上から下へどんどん高くします。重なる布の目がズレたり重なる布に皺が寄ったり、運針が困難になっていきます。この困難脱却のために布を一重にし、さらにに布目を塞ぐためにステッチが細密化され、1目や奇数目のこぎんの模様展開に…繋がるのでしょうか?

 

こぎん刺しの刺し糸が木綿に変わり始めたのは、江戸末期の津軽藩が、武家の婦女に綿を支給し綿織物の生産を推奨したことが要因にあります。農家は野菜と交換で、武家から綿を入手することができました。綿糸は、麻糸に比べると格段に針の滑りが良く、このことから単調なステッチの地刺し®️から模様刺しへ急速に発展して行ったと考えられます。

また、この時にこぎんは保温に重きを置いて発展したことから奇数目の独自の模様に進展したのではないかと高橋一智氏は考えました。耐久性を確保するだけなら、消耗の激しい部分だけに刺し子を施せば済むにもかかわらず、胴体部分全体に模様が施されている点や、その部分が二重布のつづれ刺しではなく、一重の布に太い糸で目数を数えて密に刺す、いわゆる目塞ぎ刺しを施す点、そして布目を数えないズブ刺しでも補強の役目は十分果たすにもかかわらず律儀に布目を数えるつづれ刺しをしている点を理由にあげています。

一方で菱刺しは、こぎんと同じつづれ刺しの技法でありながら、布を二重に使用していることや、衣類としては比較的消耗が激しい、タッツケに地刺し模様が多く見られるところから、こぎんより補強耐久を重視して進化してきたのかなと考えられます。

 

菱刺しのタッツケに見る地刺し模様。右側のタテ綾杉は3目で構成されています。

 

現在発売されている菱刺しの書籍でも、菱形モチーフの型コとは別に、多様な地刺し模様が紹介されています。これらの中には、奇数目の模様や、奇数偶数混合の模様もあります。こぎん刺しにも竹の節や市松などの地刺し模様がありますが、偶数目が多用されています。これらの地刺し模様を見ていると、単調なステッチの繰り返しから発展し、さらには奇数目のこぎん刺しと偶数目の菱刺しに進化していく経過を見出せるような気がしています。

 

こぎん刺しに見る地刺し模様の1種である竹の節は2目のステッチで構成されます。

 

この度、koginbakのモドコDBに新たに地刺模様が加わります。これらの模様は、八田愛子さんのご厚意により掲載させていただくことになりました。八田愛子さんは50年ほど前に、ご主人の赴任地あった青森県八戸市で菱刺しを知り、青森の民族学者の田中忠三郎氏や共著者の鈴木堯子さんとともに、菱刺し模様を研究し纏められました。現在も図案集の復刻版が日本ヴォーグ社から発売されています。
モドコDBで紹介する図案は、かつて八田さんがオリジナルで作成し、図案集に掲載されなかった図案です。多くの方に使っていただくことで、菱刺しが世に広がって欲しいとの八田さんの願いが託された35種です。図案はダウンロードができますので、是非ご活用ださい。

https://koginbank.com/modoko/main_category/jisashimoyo/

 

地刺し®️について

「地刺し®️」は戸塚刺しゅう協会の登録商標です。創設者の戸塚きく氏は、こぎん刺しや刺し子を習得し、昭和の初期には珍しかった西洋刺繍の華やかさも加味して独自に地刺し®️や刺しゅうによる多様な表現を追求しました。1952年の創設以来、今もなお全国で、豊かな深みのある表現を楽しむ刺しゅう文化の普及活動を続けています。

 

 

~参考文献~

みちのくの造形ー刺しこぎん編ー 高橋一智著・東奥日報連載 昭和38〜39年
津軽こぎん 横島直道 編著 日本放送出版協会 昭和49年
民族服飾文化 刺し子の研究 徳永幾久著 衣生活研究会 平成元年
南部のさしこ仕事着コレクション図案集 青森県三沢市教育委員会 平成27年度

koginbank編集部 石井勝恵






 


トピックスの最新記事一覧



 

こぎん情報募集中!!

koginbankでは、こぎん刺しのイベント・教室・グッズ・モドコなどの情報を随時募集しています。
詳しくは、お問い合わせフォームにアクセスしてください。