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イラストこぎん刺しcotobatoさんのこぎん刺し教室

2017.10.12


koginbankではインスタグラムでたくさんのこぎん刺しや菱刺しの作家さんをフォローさせていただいております。その中のお一人でもあるイラストこぎん刺し@cotobato_stitchこと岩橋有香(いわはしゆか)さんに会うため、愛知県豊橋市まで行って参りました。

 

数ヶ月前、私はインスタグラムの中で無作為に素敵なこぎん刺しを探していました。そんな時にこのこぎん刺しで作るおにぎりを見つけて大きな衝撃を受けたのでした。(因みに、おにぎりは梅干しおにぎりと2種類ございます。)おにぎりをこぎん刺しで作れるのか!という驚きと、美味しそうで、なんともかわいらしい魅力に惹かれ、このおにぎりを作る人に会いに行かねばならない衝動に駆られたのです。

 

 

 

  

イラストこぎん刺しcotobatoさんの作品はおにぎり以外にも、野球ボールやきのこ、ウサギなど子供達が喜びそうなモチーフが沢山あります。また岩橋さんは月に2回こぎん刺しの教室も開いており、今回はこちらの教室も取材させていただきました。愛知県豊橋市は静岡県との県境に近く、名古屋までは車で1時間半程の距離です。関東以西では個人で教室を開かれている方はとても珍らしく、愛知県の三河地域では唯一この「豊橋こぎん刺しの会」があります。

 

 

cotobato」は岩橋さんの主宰する子供のためのことばの教室でもあります。岩橋さんは言語聴覚士として言葉に遅れがある子供の発達や子育てに悩まれる親御さんのサポートもされています。「豊橋こぎん刺しの会」はことばの教室cotobatoに通われるお母さん達の気分転換の場としてはじめたのがきっかけでした。

 

 

岩橋さんのおばあさまは刺し子を、お母様はパッチワークをされておりました。そんなご家族の中でご自身も子供の頃から針仕事が大好きで、これまで様々な刺繍や刺し子を習得してきました。中でもこぎん刺しは岩橋さんにとって、ライフワークとしてじっくりやりたいと思っていた憧れの存在です。昨年、お子さんの絵を刺繍で仕立てた作品が第一回キルト&ステッチショーDMC賞を受賞できたことが新たにこぎん刺しの製作を活動に据える後押しにもなりました。

 

 

岩橋さんには小学6年生を筆頭に3人の息子さんがいらっしゃいます。こぎん刺しをしていると息子さん達が興味津々に集まってきて図柄のリクエストが出てくるのだそうです。お子さん達と一緒にこぎん刺しを楽しむうちに、伝統をこの先へ受け継いで行く沢山の子供達にこぎん刺しを身近で楽しい存在として捉えてもらえるにはどんなことが必要だろうと考えてできたのがイラストこぎん刺しです。

 

 

従来のこぎん刺しではキノコやおにぎりのような曲線の図柄は作れません。それは、布の目を奇数で拾ってステッチを入れていくこぎん刺しのルールに理由があります。(詳しくはこちらを参照)しかし岩橋さんは「目数を数えることを最初の段階で教えてしまうと、面白さを知る前にわからなくなってそのまま諦めてしまう子もいる。それよりもまずは糸を横に刺していくことを覚えてこのステッチを並べて行くと、みんなが知っている絵が出来上がる面白さを体験してほしい」と考えたのでした。

 

目数を数えることを意識から外すことは、こぎん刺しに慣れているととても大胆なことのように思えます。目数を意識してステッチを入れることがこぎん刺しの大きな特徴でもあるからです。しかしこぎん刺しの特徴を極限まで分解していくと、最後に残るのは「横に糸を刺していく」こと。これがないと藍の麻布に白糸を刺すことも、目数を奇数で数えることもはじまりません。

 

 

今回の取材では特別にkoginbank編集部員に子供こぎん刺しワークショップで行っているイラストこぎん刺しを体験させていただきました。作ったのは小さなしおりにワンポイントでヨットと飛行機。 大きな図案シートを読みながらスタート!

 

 

この図案は手に持ってシュミレーションしやすい大きさで、その上、針を動かしながら見るにもちょうど良いサイズでした。番号のあるマスから針を出し、番号のあるマスへ針を入れます。図案の作り方がとても易しいです。これらの工夫には岩橋さんの息子さんのアドバイスが参考になっています。男の子は図を読むのが好きなのだそう。息子さんに限らずお子さんを対象にこぎん刺し教室をすると男の子が意外に熱中していると言います。

 

 

日常的に針を持たないと針の持ち方なんて知りませんよね。でも当たり前のように針仕事が生活にある私には気づくことができないことです。編集部員の針の持ち方のペンを握っているような不自然さを見てびっくりしてしまいました。でもすごい真剣!二人とも無言で刺しています。

 

 

はじめて刺してみた編集部員は、こぎん刺しは素直さが試されると言っていました。岩橋さんもお子さんの方が少し教えるとすんなり理解するのだと言います。邪念の多い大人にはこぎん刺しは実は難しいのでしょうか?これはちょっと興味深いポイントです。

 

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今年の2月からスタートしたcotobatoさんのこぎん刺し教室「豊橋こぎん刺しの会」はこぎん刺しを全く知らない人も針を持ったことがない人も気軽に楽しめるようなとても丁寧で工夫を凝らしたプログラムです。

 

参加される方が集まる前に皆さんの席に材料と図案とフォローシートを並べていきます。

 

教室で作る課題はクルミボタンのヘアゴムです。教室ではこぎん刺しの基礎的要素を6つのステップに分けて理解を深めていきます。毎回ステップごとに図案の違うクルミボタンを完成させていきます。参加者は課題で使う糸の色をたくさんの刺繍糸の中から選びます。

 

こぎん刺しの糸よりも身近で購入しやすいことから刺繍糸を使っています。

 

 

 

ステップごとにわかりやすい大きな図案が用意されています。手元と図案の比較がしやすいので、この図案を見ながら皆さん針を動かしていきます。それでも刺していてわからなくなったら岩橋さんがフォローに入ったり、周りの皆さんでフォローし合います。こぎん刺しは間違って刺してしまっても容易にやり直しができるところが便利です。

 

 

教室では一人一人のペースをしっかり把握して参加者の席を用意しています。参加者それぞれの座席にはフォローシートが並べられています。これは、ステップの進捗を参加者と岩橋さんが共有するシートです。このシートの空白が埋まっていく充実感が次回の意気込みにつながります。

 

 

教室では小さなクルミボタンのヘアゴムを課題として製作します。それには理由があって、子育て中のお母さんは家に戻ると家事と育児に追われ、製作途中の状態で持ち帰っても続きができません。そこで教室の時間内に作って完成した状態で持ち帰られるものをと考え、ステップごとに6種類のクルミボタンでヘアゴムを作ることになりました。教室の2時間の中で皆さん完成させて持ち帰ります。

 

 

参加者は20~30代の子育て中のお母さん方が殆どで、お子さんも一緒に参加されます。教室の一角には託児スペースを設け、お子さんを見ていてくれるボランティアスタッフの伊藤さんがスタンバイしてくれています。お母さんたちは安心してこぎん刺しに没頭し、子供達は広い教室を走って遊んでいました。

 

この日使う糸の色を2色選んでいます。色選びは楽しい悩みの時間のようです。

 

 

基礎を学ぶ6ステップを終了した後は、月替りでこぎん刺しの伝統模様の習得しながらこぎん刺しへの理解をより一層深めて行きます。 また、教室では自宅でもやってみたい人に製作キットを販売しています。この下のヘアゴムはそのキットで参加者の娘さんが作ったヘアゴム。親子のセンスの違いを発見する面白さもあるようです。

 

 

岩橋さんにはこぎん刺しを親子で楽しむツールとして拡げて行きたい思いがあります。こぎん刺しのシンプルな仕組みには親子で楽しめる魅力がたくさんのあります。この魅力を岩橋さんは、これまで趣味として続けてこられた様々な針仕事の経験と、ご自身の言語聴覚士としてたくさんの親子と接するお仕事の中から見出して来られました。

 

岩橋さんの作るイラストこぎん刺しはこれまで見たことが無くとても斬新ですが、こぎん刺しの「針を横に動かしてステッチを作る」という基礎の上に現代的な面白さが表現されています。「糸を横に刺す」、この単純な動きの積み重ねから多様な表現が生まれて広がって行く面白さがこぎん刺しにはあると私は考えます。イラストこぎん刺しやこの教室は、岩橋さん自身が仰るように「こぎん刺しの世界への入口」として素晴らしい場を作っていらっしゃると思いました。参加された親子がこぎん刺しのシンプルな面白さを知り、体験を重ねることでお母さんはこぎん刺しをより深く知ろうと思ってくれるかもしれないし、お子さんはこぎん刺しの新しい可能性を見つけてくれるかもしれません。

 

 

参加されている方にお話を伺った中で、こぎん刺しをやってみたいと思い本を買ったのに本の図案が読めなくてこの教室に来ましたという方がいらっしゃいました。その方は教室に来たらその本の図案が読めるようになったと教えてくださいました。同じように本を買ったけどわからなくてこぎん刺しをはじめ損ねてしまった人が他にもいらっしゃるかもしれません。koginbankとしては興味を持ってくれた人を一人も漏らさずこぎん刺しのファンにしていきたいと考えています。

 

様々な日本の伝統工芸の中でこぎん刺しは「伝統」の言葉を抜きにしても、たくさんの人がこの面白さに魅力を感じてファンになってくれる唯一の伝統工芸だと思うのです。それは時代が変わっても変わらない面白さがあるからです。koginbankはこれから先もこの魅力を損なうことなく世に拡げていきたいと考えています。今回の取材はそのための沢山のヒントいただいた貴重な機会となりました。豊橋こぎん刺しの会の皆さん、参加者の皆さん、ご協力ありがとうございました!

 

 

豊橋こぎん刺しの会の詳細はこちら
https://koginbank.com/class/mikawa-toyohasji_kogin/

イラストこぎん刺しcotobato_stitchインスタグラムは>>>こちら

岩橋さんの主催することばの教室♪cotobato♪についてはこちら
https://cotobato.jimdo.com/

 

<追記>この取材にお伺いした日の後、大阪の阪急百貨店うめだ本店で”新 日本の美意識”という全館催事に岩橋さんのイラストこぎん刺しがピックアップされ、その時に開催したワークショップの様子がインスタグラムで紹介されています。是非こちらもご覧ください。

 

インタビュー:koginbank編集部  text:石井/ photo:鳥居/浅井
 






 


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