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あおもりっていいなぁ交流会in東京

2017.10.27


10月14日。koginbank編集部は、アーツ千代田3331で開催された「あおもりっていいなぁ交流会in東京」におじゃましてきました。このイベントは青森県企画政策部地域活力振興課 移住・交流促進グループが運営する青森県つながる県民プロジェクト公式サイト「あおもりっていいなぁ」が、青森により深く関心と関わりを持ってもらうために開催する交流イベントです。

 

 

今年は4月に青森からこぎん刺しの雑誌「そらとぶこぎん」が創刊されたことを機に、東京近郊でこぎん刺しを生業として活躍する人と一緒にこれからの津軽こぎん刺しの可能性を見つめる、こぎん刺しイベントでした。実はこのイベントはリリース早々に定員80名を上回る申し込みがあり、残念なことにお断りしなければならない参加希望者が多数いらっしゃったのだそうです。こぎん刺しに関心を持つ人の多さに驚きです。

 

 

冒頭には40年前に製作されたこぎん刺しのドキュメンタリー映画「津軽こぎんー高橋寛子ー」が上映されました。当時の日本の女性のものづくりを海外に紹介するため、伊勢真一監督によって製作された、「おんなの四季」と題したシリーズ作品の一作です。明治時代に一度途絶えたこぎん刺し復興の立役者であったこぎん研究家・高橋一智氏の妻の寛子氏にクローズアップしたドキュメンタリーです。

 

 

高橋寛子氏は、夫・一智氏を先生と呼びます。木村産業研究所(現・弘前こぎん研究所)で二人が結婚するずっと以前から一智氏の研究を実際に針を動かして製作して来られたのが寛子氏でした。一智氏の研究は現在のこぎん刺しの礎であり、寛子氏が製作してきた数々のこぎん刺しが無ければ、今現在多くの人に楽しまれているこぎん刺しは存在していなかったかもしれません。こぎん史に名を刻む偉大なご夫妻ですが、今回上映された映画も幻と言われるほど、高橋ご夫妻の活躍はあまり知られていません。

 

この映画の製作から数年後に一智氏は79歳で亡くなられています。晩年の夫婦が現役でこぎんの研究に励み、雪深い冬の西目屋村に昔のこぎん刺しの調査に出向く姿など、2人3脚でこぎん刺しの復興に捧げた人生が垣間見える映像でした。

 

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上映後のトークイベントではまず最初に、kogin.netを主宰するグラフィックデザイナーの山端家昌さんが、こぎん刺しのルーツと津軽の地域で3種類の違いがある古いこぎん刺しの特徴を実際の古作の野良着と一緒に紹介してくださいました。こぎん刺しの発祥の地は弘前市の西隣に位置する西目屋村。山で生産された炭俵を担ぐ女性たちの仕事着にルーツがありました。

 

 

紹介された古作の野良着はこのイベントのために特別に弘前市の石田昭子さんからお借りしたものです。石田さんは現在89歳。若い頃にこぎん刺しに魅了され少しずつ知り合いから集め大切に保管されてきました。昨年、ご自身の米寿の記念として、このコレクションが世界へ羽ばたいてこぎん刺しの素晴らしさが世に広がるようにという願いが込められた「宙(そら)とぶこぎん展」を開催されました。この「宙(そら)とぶこぎん」の名を継いで雑誌「そらとぶこぎん」が誕生しました。

 

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こぎん刺しを違う切り口で発信するお三方がそれぞれの活動についてお話くださいました。 こぎん刺しに向き合った人たちの功績を地元への定着を目指す「そらとぶこぎん」編集長の鈴木真枝さん、こぎん刺しのこれからの社会での新しいあり方を提言しているkogin.netの山端さん、こぎん刺しを現代のライフスタイルに浸透させていく角館徳子さん。三様にこぎん刺しを次世代に繋げるべく、目覚しい活躍をされているお三方です。

 

 

今年4月に創刊した雑誌「そらとぶこぎん」編集長の鈴木さんは前職は地元の新聞記者でした。記者時代にこぎん刺しの歴史やこぎん刺しに向き合う人達の想いに触れ感銘を受ける一方で、こぎん刺しに関する本は手芸に限られた本しか存在しないことに疑問を感じたことからこぎんの歴史や自分たちのルーツであるこぎんスピリットをしっかり形にして次世代に残したいと、雑誌「そらとぶこぎん」をスタートさせました。

 

創刊号では上映されたドキュメンタリーに登場する高橋寛子氏を特集しています。これまでこぎん刺しの功績者としてはあまり知られていませんでしたが、高橋夫妻を知る人は夫の一智(かずとも)氏を今もなお親しみを込めて「イッチさん」と呼び、二人のことを語ってくれる人が青森にはいらっしゃいます。その人たちの言葉で創刊号では高橋ご夫妻のこぎんにかけた人生が紹介されています。

 

 

こぎん刺しが野良着に活用されていた時代、模様を刺すこぎん刺しを始めるには野良着にする麻布の麻を育てるべく、麻の種を蒔くことから農家の仕事が始まります。野良着にこぎん刺しが刺し上がるまで1年以上の時間を要し、現在の多くの人に楽しまれているこぎん模様を刺す時間は全体の1割にすぎません。今となっては想像もつかない、このこぎん刺しに尽くす手間暇を、かつての暮らしぶりと併せて伝えていくことが今後の課題と鈴木さんは仰います。

 

 

kogin.net主宰の山端さんは広くこぎんを知ってもらう取り組みを主体として古いモドコを活用した印刷物プロダクトホテルの客室デザインなど多岐にわたりこぎんのデザインを製作され、布の上だけじゃないこぎん刺しの楽しみ方をたくさん提案されています。また、現役で最も深くこぎん刺しを研究されています。高橋一智氏に続くこぎん研究家でもあります。

 

 

2016年にLexus New Takumi Projectに選出されたこぎん刺し作家の角館徳子さんは伝統に法って麻布にご自身の草木染めの木綿糸を使ってこぎん刺しを刺しています。雑貨小物やアパレル、家具などをこぎん刺しで製作しています。現在は拠点を東京に移し製作とクラフト展での発表、教室も開催されています。これからも次世代に残るこぎん刺しを製作していきたいと仰っていました。

 

 

トーク終了後には山端さんと角館さんによるワークショップが開催されました。
角館さんのワークショップはクルミボタンを製作。参加されていた方にお話を伺うことができました。その方は身につけている物はどれも素敵に刺し子を施され、針仕事は手慣れたご様子なのですがこぎん刺しは難しいと仰います。意外な人からの意外な言葉にビックリしてしまいました。布目を数えるのが難しいと仰います。私ならば数に従って進めると自動的に綺麗に模様が出来上がって易しいと思えるのですが、感覚的にスイスイ針を動かせる人には難しい制約と感じるのでしょうか。人によって捉えどころが様々で興味深いです。

 

 

山端さんのワークショップでは小さなこぎん刺しのフレームを製作しました。このテーブルの上を見ているだけでも賑々しさが伝わります。

 

トーク中に会場で参加者の皆さんに聞いてみたところ、青森県出身者は2〜3割。こぎん刺し経験者が8割強いらっしゃいました。イベント後にお話をしてくださったこぎん刺し経験者の参加者はハンドメイドのイベントでこぎん刺しを知った方や、通信販売のこぎん刺しキットを試してみたことがきっかけでこぎん刺し教室に通われたのだそうです。こぎん刺しをしていると写経を書いている時のような無になれる感覚があると仰っていました。

 

 

伝統工芸の中には伝統「的」工芸品と呼ばれる物があります。これは、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づき経済産業大臣が指定する伝統的工芸品です。ここに指定される物は明治以前に藩が奨励して開発されてきた工芸品が多いと聞きます。それらとは違い、土着の農民の生活から発生したこぎん刺しは民芸運動の柳宗悦氏に見出され民芸として知られる伝統工芸ですが、現在も伝統的工芸品の指定はありません。しかし、今回のイベントの盛況ぶりを拝見してこぎん刺しのこの賑わいは、存続が危ぶまれる多くの伝統工芸とは違い、現在も現役で続いている民衆的工芸(民芸)らしいクールな姿なのではないかと感じました。

 

「あおもりっていいなぁ」について

青森県企画政策部地域活力振興課 移住・交流促進グループが運営する青森県つながる県民プロジェクト公式サイト。青森を応援し続ける県出身者を紹介し、青森県内の「イマ、コレ!」という注目情報や首都圏などで青森を感じ、楽しめるイベント情報などを発信しています。>>>https://aomori-iina.jp/

雑誌「そらとぶこぎん」について

今年の春に創刊したこぎん刺しの初めての雑誌。青森県津軽地方に伝わる民芸こぎん刺しのこれまでの足跡やこれからの活躍を、向き合う人たちに焦点を当て、青森からその魅力を発信しています。年1回発行。

編集部公式FBページでは来年4月に発売予定の次号に向けた取材の様子を発信しています。

 

山端家昌さんについて

青森県おいらせ町出身。kogin.net主宰。グラフィックデザイナー。古典のこぎん刺し模様を多岐にわたるデザインに活用し、こぎん刺しの新しい価値を創出されています。

山端さんのこぎん刺し教室はこちら

 

角館徳子さんについて

岩手県大船渡市出身。弘前大学在学時にこぎん刺しに出会い、弘前こぎん研究所を経てこぎん刺し作家として活躍。昨年、全国の若手職人を顕彰するLexus New Takumi Project 2016に選出されました。

角館さんのこぎん刺し教室はこちら

 

インタビュー:koginbank編集部  text:石井/ photo:浅井
 






 


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