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世界の模様3 タイ・デーン族の布

2022.03.13


タイ族は、タイの国の人という意味ではありません。東南アジア大陸のラオス・中国南部・ベトナム・インドのアッサム地方にまたがって広く分布する民族です。

タイ族は、タイ・ダム族やタイ・ラオ族、タイ・ルー族などさらに細分され、それぞれの民族独自の布文化があります。中でもベトナムやラオスの北部に住み、女性たちが衣服に赤い色を使うことや、紅河沿い暮らしていたことからタイ・デーン族または赤タイ族(デーン=赤)と呼ばれる民族の織物は、緯浮織または縫取織と呼ばれ、ヨコ糸をタテ糸の上に浮かせるように渡して刺繍のようなふっくらした模様を成す織物でこぎん刺しにとてもよく似ています。

 

タイ・デーン族の緯浮織の様子(文化を語る布 ラオスのテキスタイル 將積厚子 染織と生活者より)
【解説】
①垂直紋綜絖に無数に入っている横糸が模様を構成する
②これを下におろしてきて垂直紋綜絖が前後に別れ、前に来た綜絖をひっぱりあげる
③ひっぱりで浮いたタテ糸の下にヨコ糸を通すと模様が一段出来上がる
④因みに多色織の場合は裏側を見ながら織る

 

仏教が普及する以前から、民族には精霊信仰があり、今もこの影響は残っています。シャーマンの衣装や死装束、供物に使う布など儀式に使う特別な布には信仰の象徴が模様として織り込まれました。

 

特にパー・サバイ(精霊崇拝の儀式用の肩掛け)またはヒーリング・クロスと呼ばれる布には両端に模様織が施され、一端が菱形の模様で悪霊を追い払う通路。縞状に模様が入るもう一端は、精霊が出入りする梯子や階段を表します。これらの意味合いからこの布には、悪霊を留めず追い出す装置や、病人の魂を身体にしっかり戻し繋ぎ止める役目があります。

 

(図録)瀧澤久仁子コレクション 祈りをつづる染めと織 タイの美しい布よりパー・サバイ。

 

下画像は最近購入したタイ・デーン族の肩掛けでバービアンと呼ばれます。前出のバー・サバイよりは模様がシンメトリーに整い、比較的新しいものと思われます。祭礼などで着用する正装の肩掛けで、木綿布に絹糸で模様が織られています。
ラオスには、メコン川のナーガ王が人間の女性に恋をし、やがて結婚して9人の子を授かり、その子供たちがラオスの人々の祖先だという民話があります。この布の中央で9分割された菱形のモチーフにはこの民話と繋がる意味合いがあるようです。

 

タテ糸が黒でヨコ糸が赤の木綿布に絹糸で模様が織り込まれています。中央が無地で両端に同じ模様が入っています。

 

時代とともに民族の中に仏教が浸透してくると、精霊信仰のモチーフが仏教の意味づけや呼称に変わっているものもあります。先の民話のナーガ王とは、瞑想中の仏陀を嵐から守った大蛇で水神のナーガのことで、精霊信仰のグアック(大蛇または竜)からナーガに変わったようです。しかし、このナーガもグアックもタイ族にとっては恵の雨や豊穣を意味する存在であり、布の中で仏教と精霊信仰が相反することなく程よく共存していると考えられます。これは日本人の仏教と神道の共存の感覚に近いかもしれません。

 

これはナーガのモチーフ。蛇が2匹頭を上に背中合わせで並んでいます。

 

タイ族の人たちは東南アジアや中国への移住を繰り返していた歴史があります。持ち運びやすい布には次世代に自分たちの伝統文化を伝えるために、口伝の物語や詩を模様として織り込み残したという説もあります。また、移住を繰り返す中で新たな共同体に属さなければならない時は自分たちのスタイルを守りながらも、新たな共同体のスタイルも取り入れ首長への忠誠を表現したそうです。

 

余談ですが、こぎんの糸に撚りがしっかり入ったものを選ぶ理由がこれを見てわかりました。布が柔らかいと模様の糸が何かに引っかかるリスクも高いです。

 

1975年にラオス人民民主共和国が樹立されるまでは、ラオス国内では内戦が続き、これらの高度な布文化に詳しい人や貴重な布の多くが内戦の犠牲になりました。それ以降は残された布を元に独自の生産を続けていましたが、1986年の国の政策がきっかけで伝統的なテキスタイルの国内外での需要が伸び、盛んにつくられました。しかし近代化の進行で手織りも機械織へとかわり、日常着も洋服になった現代では、機織りをする女性たちの姿は珍しくなりました。今も存続しているものの、その継承のために生産組織を設けたり意識的に着用の機会を設けたりしています。日本の着物に近い在り方のようです。

 

タイ・デーン族のものとされる掛け布(バーホム)。毛布くらいの大きさ。
(図録)瀧澤久仁子コレクション 祈りをつづる染めと織 タイの美しい布より

 

タイ族にはこのように織で模様をつくるテキスタイルと、染めで模様をつくる絣織もあり、どちらも素晴らしく、テキスタイル技術の精巧さに驚きます。16世紀には既に技術が確立されていたそうで、周辺の他民族文化と融合し進化してきた長い歴史が模様に刻まれています。模様の複雑さをこぎん刺しと比べると、シンプルなモチーフの組み合わせによって模様を構成するところに、こぎん刺しの歴史の短さを感じました。とはいえ、世界各地でフォークロアテキスタイルと呼ばれるものが近代化の波に侵食されているのですね。

 

参考文献

文化を語る布 ラオスのテキスタイル 將積厚子(著) 染織と生活社
(図録)瀧澤久仁子コレクション 祈りをつづる染めと織 タイの美しい布 千葉市美術館

koginbank編集部 text・photo:石井






 


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