スケッチから こぎん刺し図案 を考えてみた
10年前のスケッチノートを整理していたら、パターンスケッチが出てきました。恐らく、どこかで見かけて、こぎん刺し図案 にしてみようと思って描きとめたものです。いつか、いつか、、、と思っているうちに忘れ去っていました。
嗚呼。掃除の最中に見つけて思い出してしまった。と思った瞬間、布と針を手に持ってはじめてしまいました私。たぶん、ここでスルーして片づけたらもう一生再会することはありません。ここで図案をつくる。こういう運命なんだな…。
モチーフをどういうステッチ構成で作る?
やはり、こぎん刺しと言うからには1・3・5目だけでつくりたい。そして、1段ごとに1目ズレて斜めを構成していくのだ。しかし、これでは高い木の雄大さが今一つ表現しきれない。そこで、2段ごとに1目ズレて縦長な三角形を構成し、なんとなく雄大に聳える木を実現することができました。でも少し膨らみを帯びたシルエットが納得できない。。。
それともう1つ。連続模様としてこのモチーフを並べることを考えると、モチーフ1つのサイズが少し大きいように思えました。針を動かしながら、少しずつ森が出来上がる実感を楽しみたいイメージがあります。このサイズ感だと、自身の気持ちが盛り上がるスピードに、手の運針スピードが追いついて行けない。森の完成を見る前に飽きてしまいそうな予感。だからもう少し小さめに作りたい。ついでにもうちょっとシャープなシルエットで。ということで、菱刺しの偶数目2・4・6目で作ってみました。
膨らみが取れて、ひと回り小さいサイズのシャープなツリーが出来上がりました。これで納得のカワイイ楽しい森が作れそうです。
植林間隔を見極める
モチーフが出来てからはパソコンで森に並べる木の間隔を考えます。
モチーフ図案を考えるところからパソコンで作った方が速いのかもしれませんが、直接針を動かした方が最終的な姿をイメージしやすく、針先の進行に悩みながらも閃いた瞬間にグイグイ進んでいく実感が個人的にはパソコンで作るより楽しいのです。しかし、この後の並べる間隔を検討するには相当数の木を並べて行かなくちゃいけないので、結果を見る前に肩が凝って1日が終わってしまいます。パソコンのコピペはこんな自堕落な思いに応えてくれて本当に有難い。
木は密集させるよりも、適度に間隔を持たせて並んでいる方が、わかりやすく木が並んでいて可愛らしく見えるように思えます。ということで、少しだけ間隔をとって森の模様を作ってみました。
ついでにボリュームが出てしまった、こぎん刺しの木でも森を。
スケッチから布の上にパターンを表現できた面白さと達成感で、とても満足!
もう1つ、スケッチにあった雨をイメージした模様も作ってみました。1目が連なる縦のラインがくっきり美しく出せませんが、これはまた人の手ゆえの味わいというとこで良しとしましょう(笑)
でも、マジマジと見るにつれ、これはこぎん刺しじゃないと言われそうです。というか、作った自身も違和感を感じています。
気になる糸の渡り
こぎん刺しじゃない?と感じたのは、図柄のデザインではありません。この模様の裏側です。
長い糸目を、ここでは糸の渡りと呼びますが、5目を超える糸目(糸の渡り)が集積していると、針を動かしている最中も不意に引っ掛けて仕上がりを損ねてしまいそうでした。裏側なので、何かに仕立てる場合は芯を貼ったり、裏布を当てて引っかかりを予防できるので、裏に渡る糸の多さは気にする必要はありません。ただ、モチーフの間隔を広げるほど、この糸の渡りは長くなっていきます。また、この渡る糸の多い裏は表に出しても遜色ない模様として見えるでしょうか?
こぎん刺し図案 から見えた機能性
昔のこぎん刺しは衣類(着物)としての機能がありました。江戸末期から明治にかけての青森に生活する農民たちの衣類です。肉体労働に耐えうる耐久性が必要です。それらの着物は単衣に仕立てられていました。そんな着物に腕を通す時、裏側に渡る糸に指先を引っ掛けてしまうことがあっては困ります。昔の着物の組織は現在のこぎん布の組織の倍以上目が詰まっています。それでも、模様を構成する糸目は1・3・5目が主流で、これより長い糸目は少ないです。
こぎん刺しの着物にある様々な菱形の模様構成は、単なる装飾ではなく、正に「用の美」で、生活の中に色どりを添えようとした痕跡なのだと思います。無理なく合理的に美しさや楽しさを生活に取り込んだ叡智の集積なんだと改めて感じました。
とはいえ、今のこぎん刺しに求められるのは衣類の機能性ではなく、個々の生活を楽しむためのツールやアイテムとして、感情に対する機能性ではないでしょうか。独自の新しい図案を作る面白さというのも、こぎん刺しの魅力的な世界にあります。
今回作ってみた図案はモドコDBで公開していますのでご利用ください。