koginbank

こぎん刺しの楽しい!かわいい!を発信 こぎんマガジン

アートに振れるこぎん刺し

2021.07.19


東京を拠点に活動するこぎん刺し木曜会の作品展を拝見してきました。こぎん刺し木曜会では、年に一度開催される『悠美会国際美術展』で作品発表を行なっています。この美術展は昭和27年に発足したユネスコ美術教育連盟からスタートした展覧会で、昭和51年に連盟から継承し、今年で45回目となります。

私たちkoginbankが始動した4年前に初めて取材させていただいたのはこの美術展でした。あの時、東京オリンピックまでに東海道五十三次の制作を完成させると伺って以来、密かにずっとこのお披露目の日を待ち望んでおりました。

 

 

戸塚 元町別道 

 

東海道五十三次とは江戸時代に整備された日本橋を起点とする五街道(陸上幹線道路)の一つである東海道の、日本橋から京都までの53の宿場町を繋げたことを意味します。この宿場町の風景を描いた歌川広重の浮世絵は、皆さんどこかで一度はご覧になったことあるのではないでしょうか。

 

 

その歌川広重の浮世絵をこぎん刺しで再現したのが、今回の作品です。木曜会主宰の高木裕子さんが手がけた日本橋を皮切りに足掛け35年にわたり、約30名ほどのメンバーが携わりました。布に針と糸で原作の雰囲気を損なわず、こぎん刺しでどう表現できるのかを試みた、壮大でチャレンジングな大作です。

 

 

使った糸は35年前に、この制作のために染められた30色ほどで、参考にする下図は拡大したポストカード。これだけの限られた素材で風景の奥行きや人の動きをこれほど見事に表現できるものかと驚いてしまいました。間近に一つ一つ観ると、浮世絵の細かな表現を色糸でいかに再現するか苦悩も滲み出ているようで、グッときてしまいます。 地刺しをベースに、絵の中では小さすぎて不明瞭な人の表情や川を渡る人たちの水飛沫の動き、空の移ろう表情など、歌川広重が見たリアルな景色さえも見えてきそうな、とても心和む五十三次でした。

 

 

木曜会がこの美術展で発表する作品は大作が揃いとても見応えがあります。今年も東海道五十三次の他にも大きな作品が並びました。

 

大きな壺をこぎん刺しで表現したこの作品は、背景も一目刺しで仕上げられ、壺が浮き出ているような立体感が素晴らしい作品でした。

 

布の上での図案の構成や配色など、新鮮なこぎんの表情を見ることができる作品が多くとても勉強になります。こぎん刺しは布目に沿って規則正しく糸を通すと、どんな人でも美しい模様を仕上げることができる簡単さが魅力の一つではありますが、だからこそ、そのロジックの上でオリジナリティや新たな表現を打ち出すには、大きな壁が立ちはだかります。しかし、模索しながらも追求を積み重ねていくと、新たな表現の芽が生まれてくるのではないかと、作品の数々に考えさせられました。

 

原 朝之富士

 

主宰の高木さんはオリジナル図案を多く考案し、図案集を多数出版され、展示作品にもそれら多くの図案が使われています。繊細な雰囲気を纏ったり力強さも感じられたり、多彩な表情を生み出す図案の数々ですが、これらの図案もこのような制作の追求があってこそ生まれうるのではないでしょうか。

 

2011年の震災で注目された一本松の作品。絶妙な加減でなんとも言い難い雰囲気が表現されています。

 

毎年開催される、悠美会国際美術展は、ジャンルを問わず大人から子供まで日本国外からも作品が集まる国際色豊かな作品展です。さまざまな作品とともに並ぶ木曜会のこぎん刺しは、生活の中で見出される民藝としての美しさから、ただ純粋に見る者のこころ揺さぶる表現をアグレッシブに追求しているように思えます。こぎん刺しが規則性を超えて、芸術へ振れていく瞬間を見ているようでもあります。そしてここからこぎん刺しの新しい世界が広がり、歴史が積み上げられていくのだと思うと、重要な歴史的瞬間に立ち会っているのかもしれないと慄いてしまいます。

 

石部 目川ノ里

 

来年の悠美会国際美術展は5月に開催が決まっているそうです。こぎんの大作の数々を美術館で堪能することができる希少な機会です。来年の作品も乞うご期待です!

 

こぎん刺し木曜会について

青森旅行でこぎん刺しに出会ったことをきっかけに独学でこぎん刺しを学んだ高木裕子さんが1987年に設立。「木曜会」という名前は、古くから親交の深かった政治家の田中角栄によって命名されたもの。古典柄をベースにオリジナルの図案も多数考案し、絵画的な大作にも取り組まれ、その作品はルーブル(仏)やメトロポリタン(米)をはじめ世界各国の美術館や博物館に納められています。 また、近年では日光東照宮御鎮座400年を奉祝する行事において、自らの作品を奉納されています。木曜会では関東一円・名古屋・神戸でこぎん刺し教室を開催し、伝統の技法から現代の生活にフィットしたアイテムまで多彩な制作を教えています。

 

こぎん刺し木曜会の教室はこちら

 

高木さんの新しい図案集が発売されました。

木曜会・人形町教室BASEショップ・アマゾンでも購入できます。

 

koginbank編集部 text・photo:石井






 


トピックスの最新記事一覧



 

こぎん情報募集中!!

koginbankでは、こぎん刺しのイベント・教室・グッズ・モドコなどの情報を随時募集しています。
詳しくは、お問い合わせフォームにアクセスしてください。