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こぎん王子ハジメ

2020.01.30


「リンゴ終わったら、こけし 作って。。。」

 

青森でこんな会話を耳にすると、農家が農閑期の仕事の話でもしているのかな?と思ってしまうのですが違いました。これはこぎん刺しの作家さんの会話。りんごのリアルなフォルムと、本物の雰囲気を見事に再現したコケシには思わず「おぉ~!」と唸ってしまいます。カラフルで可愛らしくてキュンとさせられるこれらの作品を作っているのは、高校生のお子さんを持つお父さん。中年のおじさんです。弘前市のこぎんの店・津軽工房社の引間さんは彼を”こぎん王子”と呼びます。中年に王子は無理があるだろ…と思いつつ、こんな可愛いコケシこぎん刺しを作るおんじさんを我が目で確かめるべく、青森に会いに行ってきました。

 

 

こぎん王子こと、谷川一(はじめ)さんは、普段は会社員で、こぎん刺しは休日や夜に制作しています。そもそも、津軽工房社の引間さんがハジメさんを知ったのは、SNSの投稿でした。ハジメさんがひっそり投稿していたこぎん刺しを、引間さんは、「上手なこぎん刺しだなぁ~、どんな人が作ってるんだろう?」と気になっていたある日、ひょっこり来店したハジメさんを見て、あの(SNSの)こぎん刺しを作る人だと気づきました。引間さんは普段からお店に来るお客さんの雰囲気で、こぎん刺しの制作をする人はわかるのだそう。でも、男性の刺し手を見抜くなんてかなりの察知能力です。お店に入ってきたときの顔がSNSのアイコンの顔(ハジメさんの幼少期のお顔)にそっくりだったことで確信しました。そこから昨年、一昨年と2年連続で津軽工房社が主催する東京での津軽のこぎんと刺し子展にハジメさんは出品しています。昨年の展示会では、このリンゴとこけしは大好評でした。

 

 

ハジメさんがこぎん刺しと出会ったのは8年前。会社の同僚の女性が昼休みに針仕事をしているのを見て、何気なく「面白そうだね。」と声を掛けたら、なぜかその女性が材料と道具一式くれたのです。それがこぎん刺しでした。小学校の家庭科の授業以来、針仕事をしたことがなかったハジメさんですが、なんとなく説明書を見ながらこぎん刺しをはじめたら面白くなってしまった。ちょうど40歳の時でした。

ハジメさんは、こぎん刺しという言葉だけは耳にしたことはありましたが、その実態を知ったのはこの時が初めてでした。自ら実際にやってみたら面白いし、仕事のストレス発散にもなりました。教えてもらった手芸店に行ったら、こぎん刺しの糸や布のカラーバリエーションが豊富なことに驚き、そこで色を楽しむこぎん刺しを知りました。同時に、手芸は女性のするものと思っていたので、男性の自分がしていることに戸惑いもありました。でも、制作していると面白くてそんな躊躇はどうでも良くなってしまった。どんな色を合わせようかとあれこれ考えるときも、制作中に手を止めて出来栄えを眺め、至福に浸る時も、完成した時の達成感もこぎん刺しの全ての時間が楽しいことでした。自分が40代になったことがショックで、「もう初老だぁ~(ノД`)・゜・。もう人生下り坂だぁ~(寂)」と落ち込んでいた時に、こぎん刺しに出会ったおかげでだいぶ救われたと言います。

 

 

ハジメさんの作るリンゴは、布からリンゴの立体を立ち上げるために何度も型紙を調整して作られてきました。作り方の詳細を質問すると、ちょっとモゾモゾして企業秘密だと言い出します。熟練の人には恥ずかしくて教えられないと自信のない答え。でも手にとって見ると凄く丁寧な仕立てなのです。このミニポーチも、内側までこだわって綺麗に仕立てられていました。一つ一つこぎんの模様に合わせてファスナーの色や裏地の柄も違います。これらの制作は、こぎん刺しをはじめるようになってから、自らミシンで縫製するようになりました。

 

愛用の針はチューリップ社のこぎん針。他社の針に比べて丈夫なのだそうです。

 

こぎんを刺す手元を見せてもらいました。今は目下、指ぬきの使い方を練習中です。この日も指ぬきを嵌めて刺していました。やっぱり男性の手は大きい。一見ぎこちなさを感じてしまうのですが、途中、途中で糸を掬いながら細まめに糸こきを施し、丁寧な針の運びに感心します。裁縫の基本的なことや、こぎん刺しの技術は今も勉強しながら制作をしています。糸こきを覚えたのはつい最近のことなのだそうです。

 

紗綾(卍)模様はハジメさんの好きな模様です。レインボーカラーの紗綾模様は初めて見ました。ありそうで無かった色合わせで、渋くてカッコいいイメージの卍模様がポップに感じられて新鮮です。ハジメさんが色にこだわるようになったのは、こぎん刺しを初めてからなのだそうです。それ以前は色合いを意識するようなことはなかったようで、なぜカラフルさにこだわるのか自分でも良くわからないと言います。でも、こぎん刺しをされる前は趣味でミニチュアねぷた制作をしていたと聞き、作品の色合いとねぷたの色とリンクする感じがしました。

 

 

ところで皆さんはどんな道具箱を使われていますか?ハジメさんの道具箱を見せてもらいました。整理がされていて一目瞭然!無意識のうちにハサミを変なところに置いて、慌てて暫く探しまくることとか無さそう。工具箱って便利ですね。制作作業が捗りそうです。ハジメさんは買ってきたこぎん糸は束を解いて、市販の糸巻き台紙に巻いて使います。欲しい色のこぎん糸が買えないときは、自ら糸染めもされるそうです。

 

 

こぎん刺しはまだまだ飽きないとハジメさん。タペストリーのような大きな作品を作るのが夢だと教えてくれました。リンゴやこけしの可愛さもさることながら、ハジメさんの作る色合わせには独特の温かみや柔らかさを感じさせてくれます。おじいちゃんのジャージーみたいで敬遠しがちな鶯色や肌色を可愛くこぎん刺しに詰め込むところが上手いなと思いました。この色合いが大きく展開されるとどんな印象なんだろう?大作が楽しみです。

 

ハジメさんの好きなミュージシャンはX JAPANBABYMETALです。

 

ハジメさんを初めてお見かけしたのは、昨年のこぎんの学校でした。大勢の女性に混じって参加されていた一人の青年がハジメさんでした。後から年齢を伺い、外見からは40代であることが信じられずびっくりしました。「でも中はボロボロ!」と言っていたハジメさんですが、会話からも若いというか、フレッシュさが滲み出てるように思えました。

 

「やっぱりかわいいのが好きなんだべな。可愛いの嫌いじゃないよ。」

 

人生が長くなるにつれて目新しいことに出会う機会が少なくなりがちで、ときめくことも難しいですが、こぎん刺しを通してときめくかわいいを見いだしているところは、ハジメさんの若さの秘訣なんじゃないかと思います。下り坂と思っていた40歳からの人生を、こぎん刺しに出会い、ハジメさんはスキップで上っているんじゃないかと、朗らかにお話してくださる姿に感じました。やっぱり王子でした。

ハジメさんの作品は弘前市の津軽工房社で絶賛取扱中です。弘前にお越しの際は是非お立ち寄りください!

津軽工房社について

所在地:青森県弘前市大字元寺町52番地
電話番号:080-1675-3753
営業時間:午前10時~午後5時
定休日:不定休
URL:https://tsugarukoubosha.jimdo.com/

津軽工房社のインスタグラムはこちら
https://www.instagram.com/tugarukoubousya/?hl=ja

インタビュー:koginbank編集部 text/photo:石井、取材協力:津軽工房社






 


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