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こぎん刺しの楽しい!かわいい!を発信 こぎんマガジン

とまらない こぎん歴30年

2018.07.14


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昨年、私たちの元に大きな封書が送られてきました。中にはこぎん刺しの図案モチーフ「モドコ」を描きためたノートのコピー。数えてみるとモドコは370個ありました。この数の凄さにこぎんを愛してやまない様子は明らかでした。このノートの持ち主はどんな人なのでしょうか、私たちは彼女の住む青森まで会いに行ってきました。

 

おじゃましたご自宅では、玄関の壁一面に無数のこぎん刺しが飾られていました。このカラフルさには高揚してしまいます。

 

 

吉田綾子さんは専業主婦。お子様達は独立され、今はご主人と二人暮らしです。 こぎん刺しを始めたのは33歳の時、お母様に勧められたのがきっかけでした。それまでこぎん刺しの経験はありません。お母様は手先が器用で、子供達の衣類はニットまで全て仕立てていたのだそう。そんなお母様が、老眼の自分には難しいからと、娘である吉田さんに「こぎん刺しを私に作って欲しい」と言って勧めらたそうです。

 

 

その当時は、やるならキルトを習いたいと思っていた吉田さん、こぎん刺しは古臭いイメージがあって最初は乗り気ではありませんでした。しかし、近所の顔なじみの八百屋のおばさんがこぎん刺しを教えていると聞いて、やってみようと気が向きました。

その八百屋のこぎん刺しの先生は、佐々木よし先生。佐々木先生は当時、こぎん刺し復興の尽力者としてこぎんの歴史にも登場する、工藤得子先生に師事しながら吉田さんや生徒さんに教えていました。

 

 

この縦長のこぎん刺しは基礎刺しと呼ばれる当時の教室の課題。初めて課題に取り組んだ吉田さんは、これがこぎん刺しとの衝撃的な出会いとなりました。「私はこぎん刺しをやる!︎」この瞬間からこぎん刺しの面白さに取り憑かれてしまったかのように次々に課題をこなします。 この基礎刺し1枚は幅30センチ、長さ45センチ位。この大きさは、1日や2日で仕上がるボリュームではありません。吉田さんは、これを2週間に1度の教室に必ず仕上げて持って行きました。

 

教室ではこの基礎刺しの図案や色合わせを先生と相談しながら決めて、自宅に持ち帰り、次回の教室まで仕上げることを重ねてきました。

 

これは教室に通っていた時のノート。 佐々木先生の恩師である工藤得子先生の図案は特徴的で、糸目を×で印付けていきます。この図案で工藤得子先生の流派であることが一目瞭然です。

 

教室ではモドコの大きさを変えたり、分解して連続模様を作るなどのアレンジの仕方も教えてもらいました。上の作品には島田刺しのアレンジが三種類入っています。

 

教室へ通い始めて5年が経つ頃、佐々木先生が他界されました。吉田さんはまだまだ教えてもらいたかったことがあったので、残念でならなかったそうです。しかし、その後間もなくご縁あって、佐藤ハマ先生を師事します。佐藤先生はかつて、工藤得子先生と同じ家庭科の教師で、同僚でもありました。佐藤先生は工藤得子先生とは別に独学でこぎん刺しを習得された先生です。佐藤先生の教室では図案を教わることはありませんでしたが、配色や模様の構成で素晴らしいものを教えてくれた先生でした。

 

 

現在の吉田さんは、自宅で独自にこぎんを刺しています。朝から晩まで毎日。ノートも教室に通いだした頃からずっと録り続けています。最近はインターネットや書籍で目に止まった図案があればこぎんに限らずクロスステッチやキルトも書き留め、これらを参考に手元の布に収まる構成を考えて制作しています

 

 

吉田さんは布一面に模様を刺す総刺しや昔ながらの枠を入れて大きくつくる図案が好きで、自分なりに上手く枠入れ構成を考える手段として、枠構成早見表を作りました。

 

 

モドコを大きく見せるために周りにフレーミングするように入れる刺しを枠入れと言います。例えば下のこぎん刺しは真ん中にべご刺しがあり、その周りを三重に刺し模様が回っています。こうして図案を大きく作っていくことが枠入れです。

 

 

 

カチャラズ花こなどの小さなモドコを連ねた枠模様が綺麗に納まるには、中に入るモドコの目数が限定されます。これは、どの目数のモドコにこの枠が入れられるかを確認するためのノートです。

 

 

この枠入れは図案を描くだけでは出来ません。モドコの目数を使った計算式で枠入れデザインができるのですが、私にはどうも理解が難しい課題でした。吉田さんも、この計算方法を習得したいと思っていた矢先に先生が他界されてしまったため、訊ける人もなく独自に考え出しました。見つけた時は本当に嬉しくて、ノート1冊分いろんな枠のパターンを見い出し描き留めました。

 

 

ところで、吉田さんのカラフルなこぎん刺しにはどんなツールが使われているのでしょうか。愛用のものを見せてもらいました。

吉田さんが普段使う材料は、一般的な刺繍用布コングレスDMC25番刺繍糸。糸は他のメーカーなどは使いません。DMCのこの糸は刺し色の強弱を表現したい時、糸の撚り本数の調整が容易で便利なのだそうです。DMCは多彩なカラーバリエーションで刺繍糸を生産していますが、吉田さんは約450色ほぼ全色ストックしています。中でも一番使う色はピンクの601番。この色を軸に合わせる多色を決めることが多いのだそうです。

 

 

 

糸はリビング片隅に鎮座する大きな衣類ケースにストックされていました。ここは束のままの糸を保管するケースです。

そして使い始めた糸は小さな袋に色別に分けて保管します。

 

 

得意な模様は紗綾形模様。

 

紗綾形模様はカッコいいけど、刺すのがちょっと難しい。私はこの模様を刺すのが苦手です。迷路のように途中で糸の進む方向がわからなくなってしまいます。でも、吉田さんは刺し始めの3段が確認できたら、その後は見えなくてもスイスイ針を進めることができるのだとか。彼女の好きな模様でもあります。

 

因みに刺し方はどんなでしょうか、吉田さんの針の持ち方を教えてもらいました。

 

 

まずは、薬指の先端で針のお尻を押さえ、針のお尻側を持ちながら針を動かします。

こぎん用の針は普通の針に比べて長く、慣れないと持ちづらいです。 人によって持ち方はいろいろで、目皿のついた指ぬきで針のお尻を支えながら使う人もいます。吉田さんは指ぬきを使わない派。この針を押さえる指先は見てるだけでも痛そう。最初のうちは柔らかい指先から出血することもあったそうです。長年この持ち方でなので、指先は小さな豆ができて硬くなっていました。

 

針のお尻側を持ちながら針を動かします。これだと針に通る布の目がちゃんと見えて数えやすそう。

 

針は、広島針メーカーのチューリップ社こぎん針を最近は愛用しています。初めて使った時は滑りの良さに感激し、今ではこぎん針は全てこの針に変えました。これで少しは吉田さんの指先の負担も軽くなるといいですね。

 

 

以前はこぎん刺し製品の刺し子の仕事をしていたこともありました。帯やベストなど大きな製品を任されるほどの腕前。帯は素材が絹なのでとても神経質になる仕事です。絹は磨耗に弱く、布に糸を通すほどに糸は痩せていきます。同じ糸で刺し直すことができません。そして帯は長さがあるので刺していく糸の太さを終始一定に保ち続けることは難しく、かなりの熟練した職人でなければ仕立てられない製品です。それだけの熟練した腕を持っていながら、やっぱり自由にこぎん刺しを刺していきたいと思い、刺し子の仕事を辞め、専ら趣味としてこぎん刺しを満喫しています。

 

 

こぎん刺しは針を片手に寡黙になる孤独な作業でありながら、出来上がった美しさと感動を誰かと共有したくてもどかしくなります。こぎんを刺す人は誰でも経験あるジレンマじゃないでしょうか。吉田さんもです。でもこぎん刺しを広げる姿は楽しそうで、こぎんを刺すことが生きがいと言わんばかりにこの幸せを享受しているような、多幸感溢れる吉田さんでした。

 

 

取材の最後に、吉田さんは、これまでこぎん刺しを続けて来られたのはご主人の理解があったからこそだと仰っていました。ご主人がいつも刺してる様子を伺い、次はどんなものが出来上がるのだろうと家族が楽しみにしていてくれます。それが自分の励みになって続けて来られたと。一人でできるこぎん刺しも、この多彩な素晴らしい作品の数々は家族の理解、協力の賜物でした。

吉田さんはブログでもご自身の作品を公開しています。 多彩なこぎん刺しの数々をぜひご覧ください。

http://mitonana.blogspot.com/

 

今回、こぎんバンクのモドコDBに吉田さんの描きためたモドコの一部を提供いただきました。これらは、かつて吉田さんが通われていた教室で習得されたモドコです。

https://koginbank.com/modoko/個人提供

 

 

この取材で吉田さんからいただいたこぎん刺しのコースターをご希望の方抽選6名様に差し上げます。

E-mail:info@koginbank.comまで住所、氏名、こぎんバンクへの感想などをお送りください。

7月30日23:59締め切りです。当選は発送をもって代えさせていただきます。

 

インタビュー:koginbank編集部 text:石井/ photo:浅井






 


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