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世界の模様1 ラトビアのリエルワールデ帯

2020.10.31
Latvian song festival


こぎん刺しに似た幾何学模様のテキスタイルは世界中至る所に存在します。世界各地のこぎんの兄弟のようなテキスタイルの背景を調べてみると、異国とは思えない親近感を抱きます。koginbankでは世界のこれらのテキスタイルを少しずつ紐解いて紹介していこうと思います。

第1回目はラトビアのリエルワールデ帯です。

下の写真はラトビアの民族衣装を着た女性たち。右側の女性が腰に結んでいるのがリエルワールデ帯です。

 

 

ラトビアは、エストニア・リトアニアと共にバルト三国と呼ばれ、旧ソ連から独立して30年程の小さな新しい国です。このあたりの工芸品では日本でも人気なので、それらを求めて訪れたことのある人もいるかもしれませんが、日本から約8,000キロ離れた国です。日本からの直行便はなく、隣国を経由して飛行機で約12時間かかります。

 

 

バルト三国はバルト海の東側に南北に並び、西のヨーロッパと東の大国ロシアに挟まれ、長い間周囲の国の勢力拡大に奔走されてきました。十字軍に侵攻されキリスト教が広まったのは13世紀ごろのことですが、それ以前からラトビア人の生活に根付いた信仰は、長い歴史の中で隣国の弾圧に屈することなく今もなお受け継がれています。その「ラトビア神道」は日本の神道にも似て、自然の中の八百万の神を季節の変わり目に祀り祝う慣習があります。

 

ちなみにラトビア神道の施設であるルアクステネ神社は日本の農家にも似た入母屋茅葺屋根の社殿で、鳥居や手水所もあるなどとても日本の神社と共通するところがあります。

 

 

リエルワールデ帯には、この八百万の神々を文様にして織り込め、自らの魔除けとして着用したり、祭事では神木になる木の幹にしめ縄のように巻いて使うこともあります。

帯は幅が10センチ、長さは3メートルあります。赤い羊毛と亜麻の白は月経と精液を表し、生命の誕生を意味し、帯端の細かな網目状の織りこみや、結ばずにつくるフリンジには限りない宇宙の混沌や循環を示唆するとされ、この赤と白の緻密な模様の中を宇宙と繋がるポジティブなエネルギーが循環するとても神聖で重要なアイテムのようです。

 

 

この帯に込められる文様は無数にあると言われていますが、中でも八節(立春・春分・立夏・夏至・立秋・秋分・立冬・冬至)に祀られる神様の文様はよく知られています。

 

明星神:強い魔除けパワーを持ち、三つ並べて家族を、それを五つ連ねて何世代にもわたって守られることを示します。

大蛇の神:地母神マーラの使いである蛇は、先祖の知恵を授けてくれる大切な存在。短い線は蛇の子を意味し、子孫繁栄を表します。

天空神:冬至祭に祀られる天を支配し、民に恵みをもたらす神ディエヴスを表します。

太陽神(サウレ):春分の日に祀られ、永遠の命を象徴し、光と温もりを与えて家族を見守る神様です。

豊穣神:垂れ合う麦の穂が交差した文様。秋分祭に祀られる農業の神様スミスを表します。繁栄や商売繁盛の象徴です。

主な文様

 

井戸の神:先祖の古くからの知恵を汲み取る役目があります。

丘と谷の神:必ず対になっていて、男性と女性を表し、新しい生命の誕生を示唆します。

天福神:1年で最も長い昼間を祝う夏至祭の神ヤーニス。そびえ立つかがり火を御神体とする愛の神です。

貯蓄神:立冬祭に祀るマールティンシュは貯蓄と家畜の守り神。厳しい冬に向けて十分な蓄えをもたらします。

年神:1年の始まりを祝う立春に祀る神。農耕の神様です。

地母神:立春に祀り、女性の守り神でもあるマーラ。繁栄や豊穣の象徴。物質界と生滅を司ります。

 

 

リエルワールデ帯は織物で職人さんが半月かけて1本仕上げるのだそう。ラトビアの神話や逸話をもとに帯の模様は構成されていて、神々の文様は自由に進化させて良いのだそうです。模様を見てみると、太陽神は四つの白い菱形の中にも模様が入り、いくつかのバリエーションがあります。1本1本に語れるストーリーがありそうです。

 

また、帯の上に目を閉じながら手をかざし、暖かさを感じた部分の模様はその人の大切な守り神だとされ、その文様を紙やペンダントに認めてお守りとして身につけたりするのだそうです。

 

 

今回リエルワールデ帯を知り、同じ農耕民族とはいえ、8,000キロも離れた国の文化が異国文化と思えないほどに近しく感じられることに驚きました。こぎん刺しには基礎模様となるモドコには名前がありますが、古い着物に施された大きな展開模様には名前がありません。でもリエルワールデ帯のように、実は刺し手が込めた壮大なストーリーがあるのかもしれないと思いました。またこれから古作を見てどんなストーリーがあるのか想像してみるのも面白いかもしれません。手をかざすと自分の守り神になるモドコにも出会えるかもしれませんね。

 

参考文献

ルアクステネ神社、ラトビアの夏至祭について
Colla:J 2019年8月号

 

バルト三国、リエルワールデ帯について
TRANSIT47号 バルトの光を探して/エストニア、ラトビア、リトアニア

The Latvian Culture Canon

 

画像資料

Latvian song festival by Dainis Matisons

text : koginbank編集部(石井)






 


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