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【続編】世界の模様1 ラトビアのリエルワールデ帯

2020.11.29


こぎん刺しに似た世界の幾何学模様を探してみようと始まった「世界の模様」シリーズ。先月第1回目のラトビアのリエルワールデ帯は有難いことに、いつも以上に反響をいただき、まさかの日本から遠く離れたラトビアからもコメントをいただきました。

 

 

日本語でメッセージくださって嬉しくも、驚きました。せっかくのご縁なので、ラトビアとリモートで繋ぎ、リエルワールデ帯のことなどを更に教えてもらうことができました。お話くださったのは、ラトビア神道本庁のウギス・ナステビッチさんです。 ウギスさんは昨年、3週間ほど三重県の神宮皇学館大学に留学されていたのだそうで、しかしそんな短期間で習得したとは思えないとてもなめらかな日本語で話してくださり、本当に感謝です。

 

前回紹介したリエルワールデ帯はラトビア神道では、神事に使うとても大切な帯です。古くは9世紀ごろの記録から、今より細いカード織のものが確認され、それが起源ではないかといわれています。

 

カード織やってみた時の様子

 

ところで、この”カード織”はみなさんご存じでしょうか?私は今回初めて知りました。カードを使って織るからカード織と言われ、日本以外の世界各国にある織物なのだそうです。先日、体験することができました。カード織はカードの四隅を通る経糸が、カードの回転で上下し、その間に緯糸を通して模様の面が出来上がります。正直なところ、言われるがままに手を動かしたら模様が出来上がってしまった訳で、なんで模様が出来上がっているのかよくわからないけど面白い!このカード織は身近な材料で道具が揃うので手軽に始められます。わかりやすいハウツー動画もYou Tubeにたくさんあり、こぎん糸や刺し子糸は最適な材料なので、こぎん刺しの気分転換にいかがでしょうか。

 

 

リエルワールデ帯に戻りますが、現存する古い物は17~18世紀ごろのものが多く、それ以前のものは腐敗が進みやすい土地柄もあって残っていないようです。古い帯の多くはラトビア国立歴史博物館に収蔵され、20世紀後半にはこの模様は多角的に研究されていました。そのうちの1980年に製作されたリエルワールデ帯に関するドキュメンタリー映像はYou Tubeでご覧いただけます。

 

 

現代のリエルワールデ帯には儀式用と個人用と2種類あり、冒頭の画像のような紅白の帯は儀式用で、3mの長さのなかには、物語の起承転結が模様で表現されています。物語の数だけ帯の模様パターンがあるわけですが、その数は100種類ほどだそうです。

 

 

ウギスさんが見せてくださった帯には、木を中心に太陽が昇り、沈む様子が表現され、太陽の模様はこぎん刺しのモドコ(モチーフ)のカチャラズと同じ菱形なのですが、四枚菱のように並んだ大きい太陽の時や菱が1つの小さい太陽の時があったり、一年を通じた太陽の変化が意識されていて、ラトビアの人たちは自然とともに生きる民族であることがこの帯から印象深く感じられます。

 

左がラトビア神社本庁のマーク 右は12世紀のスターメリエナ肩掛布の子持ち卍のパターン

 

個人的に気になっていたのは、ラトビア神道本庁のアイコンにもなっているモチーフです。こぎん刺しでいうところの紗綾型(卍)に似ていますが、こちらは子持ち卍と呼ばれる、神蛇とその子蛇を表現した子孫繁栄を表すモチーフなのだそうです。子持ち卍もいろんな子の持ち方があり、基本モチーフのアレンジパターンの存在がわかります。

 

紗綾形(卍)日本のこの模様は仏教由来

 

また、卍は日本では中国から伝えられた仏教の仏陀の体に現れた紋であると言われていますが、ラトビアでは落雷する二つの稲妻が交差する部分を表し、雷神が天地を結ぶ恵みの伝達を象徴しているのだそうです。どのモチーフも自然の造形と結びついて逸話があり、ラトビアの人たちの自然への観察眼と想像力のすごさにとても興味が唆られます。

二種類のうち、もう一つの個人用帯は、起承転結のストーリーの中に多くの神のモチーフが詰まっている儀式用とは違って、「守り神決めの儀」で感受した自分の守り神となる1つのモチーフをアレンジした模様を織った帯です。こちらは紅白に限らずカラーバリエーションがあったり、模様も様々に存在します。職人がデザインから織まで一連を引き受けて製作します。

 

上の帯は1930年代に作られたヴェラ・ウアズアルス女史の私物で、守り神「太陽神」の太陽の文様に特化した個人用の帯です。

 

これらの帯は貴重な手仕事であり、ラトビアでは国賓への贈答品にもなります。誰でも気軽に買えるような手ごろなものではないので、帯の一部を切り取ったような短い織を手元に持っておきたいという人もいて、高い需要があります。しかし一方で、職人の高齢化や後継者不足は日本と同じように悩みどころのようです。

 

こぎん刺しのモチーフ”さかさこぶ”または”馬の轡”とも呼ばれます。

 

信仰の重要なアイテムであるリエルワールデ帯と農民の着物に刺し施されたこぎん刺しは一見別格のように思えますが、こぎん刺しでも山仕事に出る人たちの着物の背には魔除けとしてさかさこぶ(馬の轡)の模様を刺したといういわれがあり、これには宗教的概念はありませんが、使い手の健康や安全や繁栄を願い祈る気持ちを認めてつくられた点はリエルワールデ帯とも共通しています。民藝と評される手仕事にはこのような見えない祈りが込められた仕事もあり、そういった意味でリエルワールデ帯はラトビアの民藝であると言えます。

 

左のこぎんの着物の背中。縞模様に挟まれた部分に魔除けのさかさこぶの模様が入っている。

 

異国に存在する類似したものの背景を知ることで、自身の文化に照らし合わせ、こぎんを更に深く知ることができました。神道という言葉によって宗教を連想しがちですが、おそらくラトビア神道は日本のどこにでもある集落の神社と同じように地域の人たちの拠り所となる存在なのだと思います。こぎん刺しには名のつく信仰はありませんが、刺し手一人一人の日常の小さな祈りがこぎんにはあるのだと、リエルワールデ帯に教えてもらいました。

 

 

 

ラトビアにはユネスコ無形文化財にも指定され、5年に一度開催される歌の祭典があります。上の写真はその様子で1万2千人の合唱団が大きなリエルワールデ帯を担いでいます。次回のこの祭典は150周年となり、2023年7月に開催されます。肌でラトビアの文化を感じることができそうな祭典です。いまだに先が見えないコロナ禍ですが、次回のこの祭典には日本から安心して脚を運べたらいいなと願っています。

 

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世界の模様1 ラトビアのリエルワールデ帯

資料協力:ウギス・ナステビッチ テキスト : koginbank編集部(石井)






 


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