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こぎん刺し 日本民藝館展 に出品して

2023.12.14


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この度、私たちが出品したこぎん刺しのブランケットが、今年の 日本民藝館展 -新作工藝公募展-で準入選をいただきました。これまで約1年にわたる制作依頼から出品、講評会までの時間の中で、いろんなところに思いめぐらすことがあり、まさに参加することに意義があった民藝館展でした。

日本民藝館展 とは

日本民藝館展は、柳宗悦の唱える「正しい」工芸の発展を図るために、日本民藝館が暮らしに根ざした伝統的な手仕事と、天然素材のもつ健やかな美を宿す工芸品の出品を募り、その優秀作を展示紹介し、普及させることを目的とするものです。毎年12月には、優秀作の発表の後に入選、準入選の作品を日本民藝館で展示販売されます。

試作布を試作布で終わらせないために

koginbankでは、昨年末から販売商品として90㎝巾のこぎん刺し専用綿布の開発をしておりました。この布はこぎん刺しの素材として販売することを目的に開発をしておりましたが、販売に至る条件をクリアできずに試作段階で断念しました。理由は素材として届けたい品質と価格に届かなかったからで、布としての機能性は何も劣るところはありません。せっかくのご縁でつくることができた大きな布を、より価値あるものにしたいと、こぎん刺しの大作をつくることを考えました。

大作もアートではなく、愛用できる日用品にしたいと思いました。厚手の木綿布なので、綿のやわらかい肌触りと耐久性の良さを使い込んで存分に味わい、本藍染めの模様の変化を愛でて行きたいという個人的な妄想から、ブランケットという形で、さらにリバーシブルで楽しめるように、裏側には糸継ぎをつくらずに総刺しで仕上げたい!と、ここまではイメージできたのですが、こんな制作を誰にお願いできるだろうかと考えると悩ましいところです。

個人的には、昨年取材させていただいた、こぎん刺し作家のさとの坊さんにいつか大きな作品を作ってほしいと思っていました。彼女の図案を用意せずに針の赴くまま、予定不調和に布に模様を展開したときの作品の息遣いを見てみたいと思っていました。

さとの坊 の こぎん刺し

断られることを承知で、さとの坊さんにお声がけしたところ、やってみたいと言っていただき、模様は全面的にさとの坊さんに一任して布と糸を委ねることができました。

民藝館展へ出品しようと思ったのは、この制作依頼直後のことでした。今まで経験がないので、どういう評されるのか見当もつきませんでしたが、さとの坊さんにお願いしたブランケットは、こぎん刺しが布を丈夫にする技術として資源に乏しい雪国の生活の中にあった歴史を、今の生活の中にどう存在させるかというところの、1つの在り方を出せると思いました。そんな作品を個人的な物に留めるのが勿体なく感じてしまったのです。

制作の時間と重み

約10か月の時を経て、手元に戻ってきた布は、藍の模様がびっしり詰まって返ってきました。

じっくり見ると、昔から使われているモチーフの集合で模様が展開されています。数を積みあげて成立していく模様は、図案でしっかり検討した方が精密で均整がとれた美しい模様展開ができますが、図案が無いと途中で模様が破綻するリスクがあります。しかしさとの坊さんは、予定調和にならない進行を楽しみながら模様を成立させていきます。それが、ミュージシャンのセッションが布の上に繰り広げられているようで、こぎん刺しを見る醍醐味でもあります。単調な模様のひたすらの繰り返しや、消えがちな1目の点をしっかり見せようとするところに刺し手の息遣いとリズム、誠実さと力強さを感じました。

こぎん刺し 日本民藝館展に出品して

制作時間は約650時間。フルタイムの仕事と換算すると、約4か月の時間がこの作品に込められています。大切な時間と力をこの制作に注ぎ込んでくれたことに対し、何としても良い報告を返したい。すごく身が引き締まる思いでした。出品作品には、文章での作品説明の提出がありません。作品だけを見て選考されます。沢山の多様な作品と並んで選ばれるとき、このこぎん刺しがどれだけ理解してもらえるのか不安で祈るよりほかありませんでした。

応募から1か月後に届いた選考の結果は準入選。入賞、入選に次いだ結果です。民藝館展期間中は館内で展示販売されます。とにかく、民藝ファンの多くの人の目に留めて欲しいと思っていた目標は一つ達成できました。

講評会に参加して

民藝館展の素敵なところは、出品者だけが参加できる講評会です。これは希望する出品者が入選の有無は関係なく、選考結果発表後に審査員の講評を貰うことができる機会です。落選した作品も直に見てもらって評価のポイントを教えてもらうことができます。

民藝館展は、陶磁・染物・織物・木漆工と部門を分けて審査がなされますが、こぎん刺しはこれらの部門に該当せず、その他の部門として全部門の審査員によって審査されます。部門ごとに行われる講評会も、その他の部門として、かごなどの編組品や鉄器と一緒に行われます。落選の作品から審査員に講評してもらうのですが、出品者は作家だけでなく、販売店の方もいます。審査員の評価だけでなく、目利きの推す手仕事はどんなものなのか、いろんなジャンル、いろんな角度で物の見方を知ることができました。

また、民藝館展開催前の入選作が揃った館内をいち早く拝見することもできました。館内では、入選作品は2階での展示で、準入選が1階での展示になります。2階(入選)と1階(準入選)の作品の違いが空気から感じとれたのは驚きでした。

koginbankでは、もう1点菱刺しのブランケットも出品したのですが、こちらは残念ながら落選となりました。koginbankの布と糸を使い、菱刺しの前垂れの配色パターンにある井桁を使い制作したブランケットです。選考のポイントは色使いのようです。個人的な趣味的な印象であると。それは、普遍的に生活の中に心地よく存在するものとは違います。確かに、民藝館の中では、この作品の色遣いに刺激の強さを感じました。ただ、個人的と言われると、昔の菱刺しの前垂れは少女たちの個人的な物ではなかったかしらと思うのです。前垂れだけが菱刺しではないけれど、普遍的な色使いってどうしたら良いのか、菱刺しで民藝館展に挑むことの難しさを感じました。

こぎん刺しは民藝か?

講評会でこぎん刺しと菱刺しにいただいた言葉で、強く残ったのは、個人的・趣味的であるということ。厳しい生活の中で生まれた歴史を伝えながら生活の中に心地よく存在するものでありたい。しかしそれは、昔に戻ってということはできないので、今どういう姿で伝えて行くかを考えなければならなりません。とはいえ、個人的な趣味に走るとその厳しさが弱くなってしまうと話してくださいました。

昭和の初期にこぎん刺しの復興が始まってからこの100年近くのこぎん刺しの進化は趣味的でしかなかったのではないでしょうか?刺しやすい布、刺しやすい糸、豊かなカラーバリエーションはまさに個人の多様な好みを実現でき、手芸の世界がけん引してきたように思えます。伝統工芸品を謳う製品もどうでしょうか。時代のトレンドや合理性を追求する中で、伝えるべき歴史が霞んではいないでしょうか。今のこぎん刺しは生活に不可欠な技術でも道具でもなく、好きな人たちが集まって楽しむ世界です。普遍的に良いもので、使う人の幸せを思って作られた民藝とは相反するもののように感じました。

こぎん刺しが民藝だったのは過去の話で、現状のこぎん刺しや菱刺しでは、民藝館展での入賞を狙うのはなかなか難しいと感じました。形だけでなく価格の面でも、携わる人間が犠牲になる良い物なんて有り得ません。でも、ここに参加することの意義は絶大と思われます。趣味的に進化を続けるのは悪ではありません。楽しくないと物事は続かないですから。でも、伝統を見失うと、こぎん刺しと菱刺しは消えてしまいます。民藝館展は、伝統を見失わずに普遍性を問い続ける鍛錬の機会になるのではないでしょうか。

さとの坊さん自身は、今回の制作中は民藝に関して、しっかりした知識や理解はなかったと言います。しかし、自身のこれまでの経験からこぎん刺しに感じてきた魅力や底力みたいなものを、糸と布に委ねたのだと伝えてくれました。

先日、我孫子市白樺文学館で民藝に関するわかりやすい文章を見つけました。何が民藝の品々を美しくしているかという中の1つに「自然の恵みや伝統に身を委ね、のびやかに仕事をする心」とありました。さとの坊さんの作品は、まさにこの心で挑んだことが審査員に響いたのだと思います。

2023年度 日本民藝館展 —新作工藝公募展—

期間:2023年12月10日(日)―12月24日(日)

開館時間:10:00–17:00(最終入館は16:30まで)
休館日:月曜(12/11、12/18)

入館はオンラインによる日時指定・事前予約制となります。

チケットの購入・予約は公式サイトからどうぞ

koginbank編集部 text・photo:石井






 


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