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横浜の小学生が見つけた こぎん刺し の世界

2023.03.06


昨年10月に取材した、こぎん刺し 作家のさとの坊さんは、2018年に横浜市立大岡小学校3年3組の総合学習で こぎん刺し を教えたことがあります。取材時にはその当時の様子もお話してくれたのですが、こぎん刺し を知った子供たちの活動がとても素晴らしかったのです。担任は教師になって2年目、初めての総合学習だと言います。この3年3組の人たちにとても興味が湧いてしまい、この度念願かなって当時の3年3組の担任だった眞部先生にお話を伺うことができました。

総合学習って何?

そもそも総合的な学習の時間(総合学習)というのは、子供たちが探究的な見方や考え方を働かせて、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていく学習時間で、小学3年生から設けられます。大岡小学校では、「大岡の時間」と呼びます。

先生が総合学習のことを纏めた資料は字がびっしり詰まり、子供たちの反応を一つ一つ拾い上げ次の展開へつなげていく様子がうかがい知れました。

総合学習の内容は各学校に委ねられているそうで、大岡小学校ではクラスが形成される核となる学習時間であり、子供がより良い学びをつくって行くためにどう導いていくかを追求する先生たちにはとても重要な時間です。1年間どんな課題にどう取り組むかは、3月末に担任クラスが決まり、授業開始までの僅かな期間で計画を作りスタートするので、先生たちは常日頃からアンテナを張って学習素材をストックしています。先生は、自ら学びたい子供たちの思いや願いを引き出し、彼らの自発を促し行動につなげることが役目。同僚の先生たちとも相談しながら学習と同時並行で計画をブラッシュアップして総合学習を進めます。

はじめて担当する先生の願い

教師になって初めて総合学習を受け持つ眞部先生には、当初から子供たちにものづくりの経験を通じて手で作る喜びや、作り上げる達成感を感じてほしい思いがありました。そんなある日、リサーチに入ったハンドメイドショップで見つけた こぎん刺し。青森出身の先生にとってなじみ深い存在ですが、日常に必要不可欠ではないけれど、身近にすると気分が上がる こぎん刺し の魅力に着目しました。そして、この こぎん刺し を作ったさとの坊さんが、故郷のために横浜でできることを考え活動しているその思いに、子供たちも触れてほしいと感じました。

お酒が好きという先生は、さとの坊さんのこのビール作品を見て こぎん刺し の表現の幅広さが、子供たちの無限の可能性を引き出せると思ったそうです。

大岡の時間で こぎん刺し をやることになったのは子供たちの思いですが、発端には先生の種まきがありました。子供たちが買い物に行きそうなお店に協力してもらったり、さりげなく教室に こぎん刺し を置いてみたりして子供たちの関心を こぎん刺し に向けよう試みました。最初は思ったよりみんなの関心が弱かったそうですが、興味を持ちはじめた子供たちと こぎん刺し をやってみるところからはじめました。

小学3年生は家庭科の授業がないので、子供たちは危険を伴う針の使い方を知りません。でも、こぎん刺し に使う布は目が粗い故に太くて針先が丸いものを使います。ということで、安全な使い方を学び、こぎん針は使って良しということになりました。それでも、子供にとって布に模様を作って行くということはちょっと難しかったようです。上手く進めることができず早くも先生撃沈しました。でも、子供たちから、ちょっと難しいくらいが意欲が湧くと意見が上がり、じゃあみんなで こぎん刺し をやってみようと総合学習のこぎん刺しが始まりました。

鉢底カバーで こぎん刺し
鉢底カバーを使って模様の作り方を覚えます。

つくろう オンリーワンの こぎん刺し

まずは、模様をつくる面白さをみんなが理解できるように、目の大きさが程よいサイズの鉢底ネットを使って学習です。ここからキレイに作れるコツやこぎん刺しの魅力を見つけていきます。もうこの時点でマスターした子の中には、空き時間を見つけては こぎん刺し をするようになり、テストを早く終わらせ残り時間を こぎん刺し に費やすくらい夢中な子もいました。家に帰ったらゲームばかりだった子供たちが針や布が欲しいと突然言われ驚いたとか、子供たちの集中力が上がったと喜ぶ保護者の声もあり、こぎん刺し は家庭でも好評だったようです。

こぎん刺し の新しい図案開発

男子は新しい図案の追求、女子は実用的なものづくりと興味の傾向がありました。

こぎん刺し アクセサリー

小さな こぎん刺し を毎日身に着ける校章に合わせるのは素敵なアイデアですね。

”こぎん刺し を日常生活の中に生かし、自ら生活を楽しくしようとしたり、一つ一つのものと丁寧に向き合う子を育てたいと思っています。”

さとの坊さんには、眞部先生から最初にこんな言葉で依頼が届きました。はじめは学習に使用する素材の確保が悩ましく、さとの坊さんはインスタグラムを通じて素材提供を呼びかけ、多くの方が素材を支援してくれました。おかげで子供たちは色を組み合わせる面白さを覚え、いろんなパターンを作ってみたり、格段に技術が上がります。またさとの坊さんは、更にモチベーションが上がるように、素材を提供してくれた人たちのメッセージを子供たちに届けたり、子供たちからの質問をインスタグラムで投げかけたり、全国の応援隊と子供たちをつなげました。

子供たちの こぎん刺し1

子供たちの こぎん刺し は、なんでこうなる⁉という色の使い方が新鮮で見ていて飽きません。右上の六角形の模様は、途中で布が足りないことに気づいて急場しのぎでできた図案。それにしてもみんな上手すぎる…。

長い夏休みに入る前、さとの坊さんは子供たちに こぎん刺し のプレゼントをしました。みんな色違いの こぎん刺し には、一つ一つ違う魅力があることを認め合って欲しいという思いが託されています。子供たちも、さとの坊さんの思いに気づいたのでしょうか、みんなで決めたこの総合学習の活動名『つくろう オンリーワンの こぎん刺し』には個々の良さを認め合う思いが秘められているようです。

子供たちの こぎん刺し2

複雑な模様が苦手な子はシンプルな模様を組み合わせることでオリジナルを作り出せることを見つけました。ちなみに、テコナコ(蝶々)は子供たちにとって難しいけど憧れの模様だったようです。人気だったのは卍型でした。

我らの こぎん刺し を世に放つ時が来た!

子供たちはこぎんの魅力を知り、こぎんの面白さを味わい尽くし、技術も向上しました。今度は大切な人に届ける「プレゼント大作戦」です。相手の人となりを知り、どんな物を喜んでもらえるか意識すると新しい視点が芽生えます。そして更に一歩踏み込んで、街に出て地域の人たちに こぎん刺し をプレゼンすることにしました。子供たちは2年生までの生活科の時間でも地元の人たちと関わってきました。その経験を活かし、商店街のスペースを借りる交渉は自分たちで行います。

こぎん刺し のどんなことを伝えたいか、どんな方法で伝えたら喜んでもらえるか、これまでの自分たちの経験を振り返り、意見を出し合いました。役割分担も決めました。こぎん刺し がどうやって誕生したのかをプレゼンしたり、体験コーナーや、沢山ある模様を紹介したり。来てくれた人にはアンケートにも答えてもらいました。

お客さんに こぎん刺し を教える手元には手書きのアンケートが用意されています。

終了後アンケートで開催を振り返ってみると、一方的に話してしまったから、相手のペースを見ながら伝えよう。とか、目的が曖昧だったから手ごたえがつかめない。目的を事前に決めることが大切だ。など、次に繋げたい気づきが沢山ありました。彼らにはこの後、2月の文化祭でも発表がありました。みんなで作るイベントをどうやって来る人に楽しんでもらえるか、内容のクオリティーを上げていきます。

こぎん刺し の歌もつくりました。はて?なぜ歌が出来る⁈ 取組む前に楽しい気分になりたい。楽しくなるために歌を歌おう♪これも子供たちの2年生までの経験から生まれました。歌詞のフレーズはみんなで集めて相談しました。

さとの坊のインスタグラムでは過去にこの総合学習の様子が報告されていますのでご覧ください。こぎん刺し を作るだけじゃなく、いろんな表現に転嫁して見せる子供たちの発想と、いろんな大人と関わって自ら知りえたことを広げて行こうとする行動力に感心します。

この総合学習の最後を締めくくるイベントとして、2019年3月には、さとの坊さんと一緒にこぎんブックマーケット2019の参加を予定していました。しかし、コロナウィルス感染拡大の影響で中止。子供たちは展示のための作品制作に取り掛かったばかりでしたが、学校も休校になり制作の大きな布はほぼ手つかずのまま、さとの坊さんの手元に残っています。

左は昨年10月にさとの坊さんを取材した際に見せてくれた布です。右はこの作品のスケッチ。

イベントが再開できたとしても、成長する子供たちには、やり直しはなく時間を遡ることもできません。彼らにとっては一度きりのブックマーケットでした。参加できていたら、さとの坊さんのインスタグラムで繋がった、応援してくれた人たちとも距離が縮んだかもしれません。きっと彼らの新しい世界が広がったでしょう。当時は世界中が困惑していた中で致し方のない寂しい結末となりました。

こぎん刺し が広げた子供たちの世界

彼らの活動を知り、改めて”こぎん刺し って本当は何だろう?”と考えました。伝統文化、暮らしを彩る日用品、テキスタイルデザイン…。いろんな言葉がありますが、かなりのコミュニケーションツールなのかもしれません。それは、今はまだ知らない人が世の中にたくさんいるからなりうることなのですが、でも人を惹きつける要素と愛着を芽生えさせるポテンシャルがあるように思えます。

子供たちは、こぎん刺し のいろんな魅力を見つけて、布以外にもそれらを表現してくれました。青森を知ることで、自分たちの暮らす神奈川県にも目を向ける機会にもなりました。何より、個々の持ち味をチームの中で上手に活かし、周りの大人を巻き込んでイベントを実現する力を養えたことは、お金に変えられない大切な財産だと思います。この総合学習で、こぎん刺し は子供たちが大きな学びを得るための手段に過ぎませんでした。でも こぎん刺し 1つで子供たちの学びの機会が壮大に広げていけることが、なんとも嬉しくて仕方がないです。

2018年に3年生だった彼らはこの3月に小学校を卒業します。これからも沢山いろんな経験を重ねて行くでしょう。どんな経験も糧にして最高に楽しい人生をつくっていってほしいです。

koginbank編集部 text・photo:石井






 


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