koginbank

こぎん刺しの楽しい!かわいい!を発信 こぎんマガジン

こぎん刺し模様の著作権を考える

2020.06.11


koginbankで最も多くご利用いただいているモドコDBに最近このお問い合わせが増えてきたので、昨年のこぎんの学校でお話しさせていただいたことも含め、私たちのこぎん刺し模様に対する権利の考え方をお伝えします。

 

文化の発展に寄与すること

著作権は皆さんご存知かと思います。日本の著作権法では「思想又は感情を創作的に表現したもの」を著作物とし、この著作物の利用を独占する権利を「著作権」と言います。そして著作権を持つ人を著作権者と言います。著作権は譲渡できる権利なので、著作者が著作権者ではない場合もあります。また、なんとな〜く作品を売買した時点で著作権は自動的に購入者が持つと思いがちですが、権利の譲渡と作品売買は別です。

著作権が存在する目的は「文化の発展に寄与すること」(著作権法第1条)にあります。
これには、印刷技術の普及により、制作物の収益が印刷者だけでなく、制作者にもしっかり行き届くようにすることで、制作者の利益を護ることができれば、制作者はより良い作品を作ることができ、豊かな芸術文化の発展につながるという意図があります。



頭の中にある漠然としたアイデアは著作物とはみなされません。それを具体的な手段で表現して初めて著作物になります。例えば、料理のレシピ自体はアイデアとみなされますが、レシピをテキストにして書籍やウェブ上で公開されたものは著作物となり著作権を持ちます。また、こぎん刺しの場合は図案が同じでも、使われる素材や色の違う作品にはそれぞれの著作権があります。

図案(デザイン)の権利は?

著作物は完成した時点で自ずと著作権が発生します。しかし、日本の法律では、すべての著作物が著作権法で保護されているわけではありません。日本では、絵画や彫刻などの「純粋美術」に対してデザイン、設計図や工芸などの実用性のある創作物には「応用美術」という言葉があります。応用美術には著作権法による権利の保護がありません。例えば、ハサミのデザインを著作権で保護してしまうと、多くの人が便利なハサミを気軽に使うことができなくなってしまいます。実用のための創作物の利用を権利で制限してしまうと、社会全体の不利益になってしまうからです。


応用美術の権利の保護には、意匠法による意匠権がありますが、期限付きの登録制になっています。

こぎん刺しの模様やモドコは、機能性の追求の元に生まれた図案であるので、応用美術になります。著作権法による保護がなされません。法律の上では、図案を無断で商用利用することは問題ないということになります。しかし、ルールはそうでも人の気持ちは別です。オリジナル図案を作成する作家さんの多くは著作権を主張しています。彼らの人生の様々な経験や自己投資の積み重ねから生まれたものであり、製作の何倍ものコストをかけて作った図案です。その図案やデザインを勝手に他人が使って私腹を肥やしていたら、誰だって気分がいいものではありません。社会は人と人の関わり合いの中で経済が回り、文化が発展します。お互いを尊重して利用することが出来たら、こぎん刺しも菱刺しも、もっと成熟して新しい魅力がたくさん出てきて、みんなが楽しめることが増えるだろうと期待しています。

モドコDBの著作権

koginbankではモドコやこぎん刺しの模様は著作権で保護されうる美術と考えます。現状の法律では、応用美術として著作権法で保護されるものではありません。しかし、時代の変化により、独創性を認めうるデザイン(応用美術)に著作権法による保護を認める動きが見えつつあります。こぎん刺しの図案はシンプルなものが多く、小さなモドコに制作者の独創性を見いだすのは難しいと感じますが、制作者を尊重すべきと考えます。

モドコDBで公開されている図案は利用に制限なく自由に使えることが前提であるため、著作者や著作権の有無を追求して公開しています。書籍から抜粋したものは出典を明記し、全てのモドコや図案の出所を明確にして管理しています。


また、クリエイティブコモンズ(CCライセンス)を表記して、自由に利用していただけるよう意思表示を示しています。
厳密には、koginbankの著作物となるのは、図案の表記スタイル(グラフィック)に対してであり、図案には別に著作者がいるわけですが、これらの権利侵害の懸念をクリアにし、ここに表現される図案全体で「BY」というライセンス表記のもと、安心して自由に利用できるようにしています。

 

 

CCライセンスとは

クリエイティブコモンズ(CCライセンス)とは利用の自由度を明示するための国際ライセンスです。これは著作権の意思表示をするものです。以前までは著作権を主張する「©」か著作権を放棄する「パブリックドメイン(PD)」の2択のみでしたが、CCライセンスによって、この2択の間に、付与する条件別に6種類のライセンスが出来ました。そしてこれらを表記することで、条件を守れば許可を取ることなく著作物を自由に使うことができます。モドコDBでは、ロゴ表記の条件付で使用をお願いするという意味の「BY」を表記しています。これは著作物の利用制限の程度ランクの中では著作権を放棄するPD手前の最も緩い制約になります。


例えば、このウェブサイトは全ページの一番下に©️を表記しています。サイト上のテキストや写真は基本的には転載等認めていません。しかしモドコDBの図案だけはCCライセンスで利用可能であると表記しています。因みに、著作権の保護期間は著作者が著作物を創作した時点から著作者の死後70年までとなっており(2018年に50年から70年に変わりました)、100年以上前の古作のこぎん刺しの図案は、保護期間がオーバーしていると考えられるのでパブリックドメインと言えます。

ご注意いただきたいのは、「BY」(クレジット表示で利用可能)の対象は、図面としての表示スタイルを含めたグラフィックであり、この中の図案をみなさんの制作のこぎん刺しに利用されるのは、クレジット表示も必要ありません。


自分たちのスタンスを!

最近モドコDBにいただくお問い合わせでモヤっとするのが、図案の商用利用についてです。私たちとしては、商用利用されることは問題はないのですが、これはkoginbankとしての見解を伝えているに過ぎません。商用がどのような形であれ、自らのビジネスとして利益を得るために利用するならば、無償で公開している私たちの言葉を鵜呑みにせずに自ら考え、自分たちのスタンスをしっかり持ってほしいと思います。

モドコDBの図案を使ったこぎん刺しの製品が、偶然にも他の作家の作品に素材や色使いが同じくなってしまい、模倣による著作権侵害だと言われる可能性はゼロではありません。図案を利用して何を作るかということの方がずっと大切です。

また、権利を保護すべき著作物であるかどうかの判断には明確な線引きがありません。応用美術でも独創性が高いと認められると著作権保護を認められることもあります。アイデアには著作権が及びませんが、そのアイデアとはどこまでなのか、どこから具体的な表現なのかも判断は曖昧です。しかしこれらのことは、インターネットで情報が行き交う今後は変わってくるはずです。知らないうちに誰かの著作権を侵害してしまったり、自らの権利を侵害されたりすることもあるかもしれません。今回の内容が、こぎん模様でクリエイティブな活動する人たち其々の著作権と向き合うヒントになれば幸いです。

【参考文献】
Mdn デザイナーのための著作権と法律講座
月刊MdN 2016年 1月号(特集:自分ごとの著作権)
料理のレシピは著作物? 著作権が発生するのはどこから?

koginbank編集部:石井






 


トピックスの最新記事一覧



 

こぎん情報募集中!!

koginbankでは、こぎん刺しのイベント・教室・グッズ・モドコなどの情報を随時募集しています。
詳しくは、お問い合わせフォームにアクセスしてください。